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知念+木手

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部室で俺はぼんやりしていて、永四郎は本を読んでいた。
不知火はじっとしているのが性に合わないので走ってくる、と少し前に出て行っていた。
ほかのメンバーはまだ来ていなかった。
俺は視線を天井から永四郎にやった。
一筋乱れた髪を耳にかきあげる永四郎の首筋には、赤い跡があった。
「永四郎」
「なに?」
機嫌がいいらしい永四郎は、微笑して本から顔をあげた。
その屈託のなさに少しためらいながら、言った。
「お前、なんでいつも、そんなおかしいくらい男とやってるさぁ」
俺は目をあわせられなかった。
永四郎は俺の目をみつめていた。
その口元からは笑みが失せていた。
俺は目を合わせられなかった。
「……うん」
永四郎は少しの沈黙のあとゆっくりとうつむき、言った。
「そうね、おかしいよね」
伏せた目の上、眉から目尻にかけてと唇の端がうすく、殴られたように変色している。
首筋には、シャツの中からずっと続いているだろう爪跡と噛み傷。
腕にもアザがあり、両の手首はぐるりとすりむけている。
おかしいよね、という永四郎の言葉は俺を沈黙させた。
わかっている。彼はすべてわかっているのだ。
けれどわかっていてなぜやるのか、それが俺にはわからなかった。
「それ、痛いばぁ?」
俺は聞いた。
永四郎は小さくうなずいた。
「うん」
「苦しいばぁ?」
「うん」
「辛い、ばぁ?」
「うん」
俺は黙った。
永四郎も黙った。
俺は言葉をまとめようとしていたが、うまくできなかった。
「ならなんで、やるさぁ。俺は、お前のやることを止めない、けど、お前がそんな思いをしてまでやりたがるのか理解できない。辛いなら、やめるとまではいかなくても断ることはできるだばぁ?なんでやるさぁ。なんでやらせるさぁ」
「……」
永四郎は俺を見た。
俺も永四郎を見た。
永四郎の目の透明さはまるで水のようだと俺は思った。
「わかってしまいそうなのよ」
と、永四郎は言った。
俺は何かひどいことを言われる予感がした。
「動き続けてないといけないの。少しでも立ち止まってしまうと、わかってしまいそうになるの。ボクは」
永四郎は自分の言葉におびえるようにいったん言葉を切り、唇をくっと結ぶと俺を見た。
俺の背筋は震えた。
永四郎はそんな俺の怯えに気づいたふうもなく続けた。
「ボクは、男の人もセックスも、大嫌いなんだって」
俺は絶句した。
作品名:知念+木手 作家名:もりなが