知念+木手
しかし、俺は永四郎がこの言葉を口にする日がくると知っていた気がした。
来る日も来る日も自分の体に負担をかける苦痛ばかりのセックスをするなんて、もしそれが好きだったらなおさらできるはずがない。
永四郎は一度もそう言ったことはないが、永四郎の行動はセックスを仕事か義務だと思っていなければできないようなことだった。
それを好きならば、絶対に選り好みをするはずだ。自分なりのこだわりをもち、いくらでもどんな形でも欲しがるなんてことはしない。
永四郎のそれは、拒むことを許されていない人間のような非常識な寛容さと貪欲さだった。
「じゃあ、嫌いならなんで」
「ダメなの。立ち止まったらいけないの。気づいちゃいけないの。ボクは男の人とセックスとがたまらなく好きでなくちゃいけないのよ。じゃなきゃ、ボクは、
ボクは今までの自分を全部否定しなきゃならなくなるから」
永四郎は震えをおさえるように自分の手首を握ったが、力をこめて片方を握りしめるその手すらも震えていた。
「はじめて男の人としたとき、それはボクの望んだことでも望む形でもなかったけど、ボクは嫌じゃなかったしむしろそのおかげで本当に自分に気づけた、みたいにボクはそう思って、それを証明するためにはいろんな人としなくちゃならなくて、だって、ボクは、だって、そうじゃないと、気づいてしまうから、本当はボクのされたことはセックスなんかじゃなくてただの暴力なんだって、ボクはひどいことを、恥ずかしいことをされたんだって、それですごく傷ついて男の人もセックスも嫌いで怖くてたまらないんだってそういうことを、受け入れたり認めたりしなくちゃいけなくなるから、それは辛いから、怖いから、だから、ボクはそうじゃなくて、それがきっかけで好きになったんだって、そう思わないと、だって、ボクは気づきたくなくて、傷つきたくもなくて、だから自分から、だって、だか、ら」
俺のほうを見ながら俺ではないどこかを見つめて弁解をするように許しを請うように永四郎はぶつぶつと呟きつづけた。
ふるえる手首と、その傷。
首筋にのぞく噛み傷。
口元の殴打のあと。
傷つけられたことを認めるの怖さに、傷が傷を消してくれることを願って自分から苦痛を求めたのだろうか。
「ボクは男の人が好きなの。セックスをしないでいられないの。そうじゃないと、そうじゃないと、ボクは」