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仮面をつけた王さま

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昔むかしの話です。
とある国に、娘であるお姫さまをそれはそれは溺愛している王様がいました。
お姫さまも父である王のことを心から慕っており、王の側に付き従い、城からは一歩もでることはありませんでした。
「王の溺愛ぶりには困ったものだ。あれではいつまでたっても姫は嫁げない」
「では、いっそ姫を結婚させてしまいましょう」
王妃様と従僕は結託して、王様には内緒で隣の国の王さまに連絡をとり、晩餐会という公式の場でのお見合いを密かに実現させました。
もし知られてしまえば、王様はお姫さまを部屋からは絶対にださないからです。
婿候補とお姫さまの顔合わせは段取り良くいきました。
しかし、途中で周囲の企みに気づいた王様が、
「なんですかあれは。このような場で仮面をつけるとは無礼千万です」
「余ほど顔が醜いのか、さぞかし臆病者なのでしょう!」
と嘲りの言葉を投げつけると、困惑するお姫さまの手をとって自室へと下がってしまいました。
あまりな王様のその態度を哀しく思ったお姫さまは、ある日王様にこう言いました。
「今から最初にこの城にやってきた男性と、私は結婚いたします」
そこへちょうど通りかかったボロボロの汚い布を体中にまとった酷く背中のまがった乞食に、お姫さまは本当について城から出て行ってしまいました。
「お待ちなさいっ!お・・・っ」
王様はとても驚き、そしてショックのあまりに気絶してしまいました。

そんなことになっているとは知らないお姫さまは、乞食の後をついて歩き、国の外れまでくると乞食に言いました。
「あの、巻き込んでしまって申し訳ありません」
実は、お姫さまは王様に目を冷まして欲しくて、王妃や従僕達と相談をして、乞食がくることを知っていてわざあんなことを言って後をついてきたのだと説明しました。
乞食は何も言いません。
「御迷惑をお掛けしました。ありがとうございました」
丁寧に御礼を告げると、ふわりとスカートの裾を持ち上げて頭を下げました。
そして、黙ったままの乞食に背を向けて、城へと帰ろうとしました。
「おい、待ちねぇ」
乞食はそう言うとお姫さまを引き戻しました。
吃驚したお姫さまが振り返ると、ボロボロの布の隙間からギラギラとした瞳が覗き見えました。
「どこいくんでぃ。アンタは俺のだ」
そう言って、乞食は嫌がるお姫さまの手を引いて歩き始めました。
乞食にしては力が強く、逞しい腕をしていました。
「ごめんなさい」
「お許しください」
「手を離してください」
お姫さまは必死に乞食に許しを乞いました。
それでも乞食は足を止めません。
「何を言う。アンタが俺と結婚すると神に誓ったんだ」
その言葉にお姫さまは、はっとしました。
王様に宣言した場所には、確かに大きな十字架が架けられていたのです。
「ああ、わたくしはなんと軽率なことを・・・」
なぜあんな馬鹿なことをしてしまったのかと後悔しました。
そして他人を、乞食を巻き込むことに何の呵責もなかった自分の傲慢さに気付き、とても恥ずかしくなりました。
お姫さまが大人しくなると乞食はすぐ手を離しました。

お姫さまと乞食は遠い道のりを歩き続けました。
途中でいくつもの大きな森や豊かな川、それに煌びやかな都を通りました。
「まあ、なんて素敵なのでしょう」
お姫さまが感激していると、ここはすべて仮面の王さまのものだと乞食が教えてくれました。
それを聞いてお姫さまは、あの晩餐会で父である王が侮辱した相手の領土にいることを知りました。そして、あの日からは王様の態度を嘆くばかりで、隣国の王のことなど気にもせずに何の謝罪もしていなかったことに気づきました。
「これもすべて神の思し召しなのでしょうか」
見つかれば殺されるかも知れません。その時には、せめて一言でもお詫び申し上げようとお姫さまは思いました。
ようやく辿り着いた乞食の家は、狭く埃っぽい粗末な家でした。
結婚した相手は乞食ですから、その日から当然お姫さまも働かなくてはなりません。
最初は食事を作るように言われますが、生まれからずっと家事などしたことがないので何もできません。もちろん、掃除も洗濯も何一つとしてできませんでした。
「あれだけ贅沢に過ごしながら、なにも知らないのか」
と呆れた乞食は溜息をつきました。
お姫さまは恥ずかしくて悔しくて泣いてしまいました。
父さまの側にずっといたい、とそれだけしか考えていませんでした。なにもしなくてもいい、という王の言葉に甘えて生きてきたことを思い知らされました。
いつの間にか乞食はどこからともなく壷を仕入れてくると、
「売ってこい」
といってお姫さまを放り出しました。
お姫さまの可愛らしい容貌のせいか瞬く間に壷は売り切れました。
乞食は喜んで再び仕入れてくると、お姫さまに売ってくるように言いました。
お姫さまも役に立てると喜んで市場へと赴きました。
「誰の許可で商売をしている!」
「勝手にこんなことされると困るんだ~。ごめんね」
しかし、市場を取り仕切っている男達に壷をぜんぶ壊されてしまいました。
こなごなになった破片をかき集めて帰ってきたお姫さまは泣きじゃくりました。
そんな彼女に今度は仮面の王さまの城に行き、雑婦として働けと乞食は言いました。
お姫さまは拒みましたが、お金がなければ生きていけません。
とうとう逆らえずに、お城で料理を運ぶ仕事をすることになってしまいました。
みすぼらしい服を着て、腰には残飯をいれる小さな壷をぶらさげ、できるだけ顔を上げないように気をつけながら仕事をしました。
ほんの僅かな給金を貰い、残飯をもらって家に帰りました。
帰りを待っていた乞食と一緒に食事をとり、また翌日には登城する毎日。
彼女は、故郷や贅沢な暮らしを思い出す暇もなく、懸命に朝から晩まで働きました。
いつしか短かった髪は胸元まで伸び、家事全般ができるようになっていました。


作品名:仮面をつけた王さま 作家名:飛ぶ蛙