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仮面をつけた王さま

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そんなある日。
お城で晩餐会が催されることになりました。
何日も前から、それは豪勢な晩餐会になると使用人は浮き足立っていましたが、彼女は気にもかけていませんでした。いつものように働いて、いつものように残飯を持ち帰り、乞食と一緒に食事をするだけです。
会場には、見た事もないような美しいテーブルクロスがかけられ、贅沢な料理が所狭しと並び、たくさんのワインが用意されていました。
着飾った高貴な人々が次々と訪れ、楽団が陽気なメロディを奏でています。
彼女は、優雅に踊る貴婦人達を柱の影からそっと見ていました。
(お父様、お母様はお元気でしょうか)
その煌びやかな光景に、今まで思い出すことのなかった両親の顔が浮かび、そして荒れた自分の手をみて、胸の奥が苦しくなりました。しくしくと痛む胸をしばらく押さえていると、同じ仕事をする奴隷から声をかけられました。
「おい、新しい料理ができるそうだ。ぐずぐずすんなよ」
「はい、わかりました」
新しい料理を運ぶべく、まずはテーブルの上を片付けなければなりません。
彼女は腰を低くしてテーブルに近寄ると、皿に余った料理や食べ残しを壷へと流し込みました。そうして空になった皿を何枚にも重ねて台所へと運ぶのです。
そして料理人からできたばかりの料理を受け取り、テーブルへと並べていきました。
この日も、彼女はできるだけ顔を隠すように俯いていました。
最後の皿をテーブルに置いた時、「こぅりゃ旨そうだな」と頭上から声が聞こえました。
突然のことに彼女は驚いて思わず顔をあげました。
「!!」
「よお、」
宝石を散りばめた豪奢な仮面からのぞくギラギラとした瞳と視線がかち合いました。
彼女はすぐに頭を下げて、慌てて引き返そうとしましたが、大きな手に腕をとられてしまい動けません。
「俺と踊ってくれねぇかい?」
ダンスを申し込まれ、彼女は頭を左右に激しく振って断ります。
なんとか手を振り払おうとしましたが、腕をつかむ力はますます強まるばかりでした。
「主の命令が聞けねぇのか」
そう言われてしまうと何も抵抗できません。
つきささるような周囲の視線を感じながら、彼女は男の手をとりました。
曲が流れ、彼女と男はゆるやかに踊り始めました。
しかし彼女の腰には、たくさん残飯の入った壷をぶらさがっています。それが踊るたびにこぼれだし、周囲の人達は笑ったり、罵ったりと不愉快そうに眉を顰めました。
彼女は羞恥で顔を真っ赤に染めていました。それでも踊りを止めることも許されず、なんとか一曲踊りきってすぐに走り去ろうとしましたが、男が固く手を握って離してくれません。
そして、その場にへたり込んでしまった彼女の耳元に顔を寄せ、こうささやきました。

「俺だ、おめぇの亭主の乞食だ」

聞き間違いではないかと、彼女は目を見開いて男を凝視しました。
信じられない様子で呆然としている彼女に男はニヤリと笑い掛けると、控えていた従僕になにかを持ってこさせました。どうやら布のようでした。
の男はそれを受け取ると、器用に頭を包むようにして覆い、ずいっと顔をつきだしました。
「どこいくんでぃ。アンタは俺のだ」
ボロボロの布、わずかに見える瞳。そして声。
まぎれもなく共に暮らしている乞食のものでした。
「だんな、さ、ま」
「おう、そうだ。俺はおめぇの旦那様だ」
わかったか?と覗き込んでくる男に、彼女は首を縦に振りました。
「俺ぁ乞食だが、この国の王でもある」
だからよ、と男はへたり込んだままの彼女をゆっくりと抱き起すと、そのまま力強い両腕で抱き上げました。

「あらためて、俺と結婚してくんねえか」

それを受けてお姫さまは、過去の過ちを何度も詫びるばかりで、もはや王族ではない自分などと恐れ多いことだとプロポーズを拒みました。
しかし王さまは意に介しません。

「俺ぁな、側でずっとおめぇさんを見てきた。おめぇさんは、もう昔のひとりよがりで甘やかされた姫さんでもなんでもねぇ」

「乞食の嫁さんにしとくのはもったいない」

「アンタが好きだ。だから、俺んとこにこい」

「逃がさねえからな」

こうした王さまの情熱に負けて、お姫さまはようやくプロポーズを承諾しました。
さきほどとは違う羞恥に顔を真っ赤にして。


もちろん二人は末永く、仲睦まじく暮らしたのでした。


おしまい。



作品名:仮面をつけた王さま 作家名:飛ぶ蛙