帝人受短文3作
共通点のある恋
折原臨也は他人の感情の機微には敏い。だから少年の自分に向ける視線が次第に色を帯び始めてきたことにも気づいていた。(ああ、この子俺の事好きになりかけてるなあ)おそらく帝人本人も気づいていないだろう恋の気配を、臨也は敏感に感じ取った。喉の奥で小さく笑う。
(悪い気はしないね)
臨也は基本的に関係を持つ相手を性別で選ばない。基準は楽しめそうかそうでないかだけである。気分が高揚するのを感じた。帝人に好かれることを考える。彼が自分のことで悩んだり、恐れがちに愛を告げたりしてくる未来を想像する。悪くない。実に悪くない。
帝人はいつ自分が臨也を好きになってしまったことに気づくだろう。その時の狼狽する様子を想像しただけでもわくわくした。早く早く自覚しちゃいなよ、俺の事が好きだってさ!そんな風に楽しみにしていたから、ある日園原杏里の隣で頬を染めている帝人を見たときには自分でも驚くくらい腹が立った。少年の瞳に浮かんでいるのは恋への憧れである。なにしてんの、君はすでにちゃんと恋してんだよ、俺にさあ!気づけよ!そんな苛立ちと、苛立ちにまぎれて知覚できなかった焦りを抱えて杏里の前から帝人をかっさらう。非難の視線は杏里からも帝人からさえも向けられたが、それでひるむような情報屋ではない。
(君は俺のことが好きなんだからね!勘違いでとんびに油揚げ、なんて冗談じゃないよ!)
自分の想像が間違っているとは露とも思わない。なぜなら一度は非難の目を向けては来たものの、いざ二人きりになってみれば帝人は本気で怒る様子も見せない。園原さんに失礼じゃないですか、などとぶちぶち文句を言ってはくるが、全身で臨也を意識しているのがわかる。照れてるんだな、可愛いな、などと思えば臨也の機嫌もよくなった。
(でもあんまりニブいのはいただけないよ、早く自分の気持ちに気がつきなよね)
竜ヶ峰帝人は他人の感情の機微にそれほど敏い、という方ではない。まあ人並みという程度である。しかしそんな帝人でもさすがに気づかざるを得ないことがあった。
(やっぱり臨也さんて僕のことが好きなんだ…)
もしやそうではないだろうかと薄々思っていたのだが、男同士だし無い無い、まあちょっと気に入ってる人間とかそんな感じだよね、と楽観視していた。しかし他の人といるところに嫉妬されてはさすがに確定せざるを得ない。間違いなくこのひと僕のこと好きだよ。
(でも臨也さん、自分で分かってるのかな?)
普段からわりとスキンシップしてきたり、帝人と目があってはにっこり魅力的な風に微笑んだりしてくる相手ではある。帝人と距離を縮めようとしているらしいのははっきりわかるのだが、恋心を自覚しているのかどうかは定かではない。どうなんだろう、臨也さんみたいなタイプは他人の思考には聡くても、自分の感情には案外灯台下暗しってこともありそうだしなあ、と考える。お釈迦様ではあるまいし、帝人も他人の内心を読めるわけではない。はっきりしてくれないとこっちもどう対応したらいいのかわかんないのに!いや、好きだって言われたってどうしたらいいかわかんないけども! と困ったような、焦れったいような気持ちになる。
相手を意識しすぎるあまり、お互いに自分の心とじっくり向き合う余裕さえ無い。そんな共通点のある二人の恋はまだまだ始まったばかりである。