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新しい日常へ一歩踏み出す

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息を吸い、そして吐き出す。ばくばくと音をたてる心の臓を無意識に押さえながら、少年は来良高校の門をくぐった。岸谷帝人15才。同年代の子よりも幼げな風貌の少年は、学校という社会への第一歩を踏み出した。





****


それから早1週間。帝人はほてほてと廊下を歩いていた。家に籠っていた頃と違い、どこに居ても人の気配がするのはまだ慣れないが、ゆっくりと帝人は馴染みつつある。それは帝人の努力でもあるが、できたばかりの友人のおかげが大半だろう。
「みっかどー!!」
声と共に背中に衝撃を加えられ、帝人は思わずつんのめる。しかしそれを予期していたのか、飛びついて来た人間は帝人は支え、上手くバランスを取った。
「紀田君びっくりするじゃない!」
「あはは、悪ぃ悪い。帝人見つけたらついさ!」
悪びれも無く言う少年は帝人と同じクラスで、入学1日目にして仲良くなった紀田正臣だ。金色に染めた髪、耳にはピアス。不良にも見えるが、快活な彼の笑みからはそれを微塵も感じさせずに、どちらかというと付き合いやすい人柄だ。スキンシップが激しいところは帝人を戸惑わせたが、基本身内にもそんな人間が居たのですぐに慣れた。人気者になりそうな彼は何を思ったのか、どちらかというと大人しく地味な帝人に『親友宣言』してきた。これは、今の流行りなのか、今時の若者では当たり前のことなのか。少し前まで俗世から離れていた帝人には見当も付かなかったが、楽しそうな(それでいて酷く嬉しそうな)彼を見ていると、何故か「まあいいか」と思ってしまった。不思議だなと帝人は思う。自分はもっと人に不慣れかと思っていたけれど、彼に対してはそんなことは感じない。人柄ゆえか、それとも何かあるのか。
思わずじっと見つめていた帝人に、若干たじろぎつつも正臣は「どうした?もしかしてビュディホーでワンダホーかつワイルダーな俺に見惚れたか?」と言ってきたので、帝人は笑顔で「それはないよ」とばっさり切った。心許した相手には結構言う子なのだ、帝人は。
つれないぜマイフレンドーと肩に懐く正臣をそのままに、帝人は教室へと向かう。そんな二人に声をかけたのは、二人目の友人である園原杏里だ。
「ふふ、朝から仲良しですね二人とも」
「おおっ、杏里も朝からエロ可愛いな!何だったら杏里も混ざるか?俺と帝人で杏里をサンドイッチ!これぞまさしく三つ巴!」
「違うから。―――おはよう、園原さん」
「おはようございます、竜ヶ峰君」
ふわりと微笑む彼女に帝人もまた同じように微笑んだ。ほわほわとした空気が辺りを包む。何となく波長が合うなぁと思っていたりする二人だ。正臣は(ああ俺の癒しーズ!)と内心悶えてたりする。
何とも奇妙なトリオだが、意外と均衡が取れており、本当に昔からの友達のような感覚だ。授業中以外はいつも三人で行動している。お昼時間だって三人は一緒だ。今日も帝人はセルティ特製のお弁当を広げる。天気が良い日は屋上で、それ以外は教室。おかずを交換したり奪われたりとどの時間も楽しくてたまらない。出会ってまだ1週間しか経ってないのにと帝人は彼らに巡り合えたことを感謝した。
いつか兄達に正臣と杏里を紹介できたらいいなと帝人は思った。





「今日は池袋に不慣れな帝人君の為に池袋のマスターたる紀田正臣様がレクチャーしてやるぜ!」
「私も微力ながら案内しますね」
「ありがとう、二人とも」
帝人は逸る胸を押さえた。入学してからはまっすぐ帰宅していたが(過保護な兄と妖精が居るので)、今日は初めての寄り道だ。もちろん事前に伝えている。そうでもしないと、帰宅の遅い帝人を捜索願いを出さんばかりの勢いで心配するので。
「帝人、行きたいところとかあるかー?」
「んー、僕ほんとによくわからないから、二人のお勧めの場所から教えてよ」
引き籠りだったので何があるのかさっぱりだ。それに二人が楽しめる場所ならきっと自分も楽しめる。
正臣はにぱっと笑って、帝人の手を取った。
「よし!じゃあ今日は俺のお勧めスポットを教えてしんぜよう!杏里は次の機会にな!」
「はい」
「ふふ、楽しみだなぁ」
意気揚々と歩き出す正臣に引っ張られながら、帝人は擽ったそうに笑う。そして反対側の手を杏里に差し伸べた。
「園原さんも」
「え?」
「手、繋ごう?園原さんも一緒に」
戸惑いもなく伸ばされる手。帝人は異性同士が手を繋ぐという行為に戸惑いはない。純粋に、正臣と手を繋ぐなら杏里ともという気持ちからだ。ふわふわと笑う帝人に戸惑ったのは一瞬で、杏里はやがて花が綻ぶような笑みを見せ、伸ばされていた帝人の手を握った。
「俺達仲良し3人組だな!」
正臣の言葉に帝人と杏里は顔を見合わせて、笑い合った。




正臣独自の蘊蓄に時折突っ込みをいれながらも、帝人は楽しそうに池袋という街を堪能する。―――してたのだが、帝人は早速二人と逸れてしまった。繋いでいた手を離した瞬間、人込みに慣れていない帝人はあっという間に流されてしまい、気が付けば見覚えの無い場所に立っていた。
(どうしよう・・・)
とりあえず邪魔にならないように歩道の隅っこに移動する。
(確か兄さんは迷子になったらその場を動かないのが鉄則だって言ってたっけ)
帝人高校入学前に色々とレクチャーされた(自己紹介の仕方から、果ては変態撃退法まで)帝人は兄の言葉を思い出し、それを実行することにした。壁を背にし、ちょこんと腰を降ろす。座った途端、どっと疲れが足に来た。こんなに歩いたのは初めてだった。体力も課題の一つだなぁと帝人は人の流れをぼんやりと眺める。そのせいか、帝人は隣に人が立ったのに気付かなかった。
「おい」
「・・・・・ふえ?」
低い声が落とされ、反射的に帝人は声の方を見上げる。金色の髪とサングラスをした男が帝人を見下ろしていた。
「お前、さっきからそこに蹲ってっけど、具合でも悪いのか?」
「え、あ、いえっ違います。ちょっと疲れたので、休んでただけです」
「・・・そうか」
サングラスで表情は見えないが、どこか安堵した空気に帝人はほわりと微笑んだ。
「あの、ありがとうございます」
「あ?」
「心配してくださったんですよね?だから、ありがとうございます」
真っ直ぐな眸と柔らかな声に、男は僅かにたじろいだ。
「お、おう」
何だこの生き物。おそるおそる男は帝人の頭に手をやった。帝人は不思議そうに見つめるが避けようとはしなかった。そのまま慎重に、ゆっくりと撫ぜる。ぎこちないが、優しい手つきに帝人ははんなりと目元を和らがせた。
「っ、」
「わっ、だ、大丈夫ですか!」
脱力したように膝を付いてしまった男に、帝人は慌てて肩に手をやった。どうしよう、具合でも悪くなったのかなと帝人はとりあえずそっと肩を摩る。小さな手の温もりが男の肩に伝わる。男はこの時声を掛けて良かったと思った。
「・・・わりィ、大丈夫だ」
「そうですか。でも無理はしないでくださいね」
良い奴だと男はサングラスの下の目を細める。今時の若い人間、いや大人にすら無い温もりがこの子供にはあると男は出会って数分だがそう感じた。
「俺は、平和島静雄だ」
男が名を言うと、子供はきょとんとした後、今度は鮮やかに笑った。
「平和島さん?わあっ、すごい偶然、だけど嬉しい!」
作品名:新しい日常へ一歩踏み出す 作家名:いの