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「……………んぁ?」
朝か? ……いや、ここは男部屋じゃねぇ。キッチンだ。そうか、夕飯を食い終わって皆でだべってる内に眠くなってきて、そのままテーブルに突っ伏しちまったんだっけか。

「あっ、やっと起きたかクソマリモ! ったく、飯食って酒飲んでそのまま寝ちまうなんて、ぐーたらもいい加減にしろよ! こっちはとっくに片付けも済ませて明日の仕込みまで終えたとこだぞ!」

寝起きでぼんやりとした頭にコックの苛立たし気な声が飛び込んでくる。クソ、そのぎゃーぎゃーうるせぇのはどうにかなんねぇのか、このエロコックが……ああそうだ、こいつの女好きの件で俺は非常にムカついてたんだった。

「他の皆はもう部屋に戻っちまったぞ。それにしてもテメェは一日何時間寝りゃ気が済むんだ、いっそ冬眠でもしたらどうだ? ……おいコラ、聞いてんのか? 目ぇ開けたまま寝てんじゃねぇだろうな」

顔を上げると、少しぼやけた視界にこちらに向かって歩いてくるコックの姿が映った。あー……そうだ、昨日の夜もこんな風にキッチンで二人っきりになって、それであいつはすげぇ真っ赤になって俺のことが好きだって言って―――言ったよな? さっきからのこいつの飄々とした態度を見ていると、あれは何かの夢だったのかと思いたくもなる。

「オラ、水でも飲んでお前もさっさと部屋に引き上げろ。ま、テメェは二日酔いになんざなりゃしねぇだろうが……………………………おい、何だよ」

コックの右手が水の入ったコップをテーブルに置いた。そのまま離れていこうとする右手を、俺は無意識の内に自分の左手で掴んでいた。今まで水仕事をしていたせいだろうか、コックの手はひんやりとしていて気持ち良かった。その心地良さを確かめるように、更に指と指を絡め合わせる。

「ちょ、おい、ゾロ! 無言で訳分かんねぇことしてんじゃねぇ! オロすぞ! 三枚に!」

テーブルの脇に立ったコックの顔をゆっくりと見上げる。威勢の良い台詞とは裏腹に、その視線は不自然に俺の目から逸らされていた。握ったコックの右手もまた、不自然な程に硬直して動かない。ようやく頭が完全に覚醒した俺は、心の中でほくそ笑みながら思う。

―――何だ、コックの奴……案外、触られるのに弱ぇのか?

昨日の夜はお互い照れ臭くなって早々と話を切り上げちまったから、こんな風にコックに触れるのは初めてのことだった。そしてもっと触ってみたらどんな反応を見せるのだろうと思うと、確かめたくて仕方が無くなった。まあ、夕飯のときの生意気な態度への軽い復讐も兼ねて。

「ぎゃあっ!」

椅子から立ち上がり、繋がった左手はそのままに空いた右腕でコックを抱きしめると、何とも色気の無い声が耳元で聞こえた。

「…………テメェなぁ。『ぎゃあ』ってのは何だ。俺は変態か」
「ま、待て待てゾロ! これはちょっと、これはどうかと思うぞ俺は! つーか、許可も無しに何勝手に触りまくってくれてんだボケ! 離せ、この腹巻剣士!」

もう少し可愛らしい反応を期待していた俺は、ほとんど普段と同じように繰り出される悪態にやれやれと息を吐く。しかし毒づく言葉とは対照的に、ガチガチに硬直し切って棒立ちになっている腕の中のコックは結構可愛いかもしれない。

「おい待てって、まだ寝惚けてんのか!? もし誰かが入ってきたらどうする気だ! そ、そうだ、もしもレディ達にこんな危険な光景を見せちまうことがあったら……おい、死んで詫びろよテメェ!」

また『レディ』か、と少しイラッとする。何とかこいつを黙らせられないものかと思い、とりあえず目の前にあった柔らかな金髪を鼻先で掻き分け、その耳元で囁いてみた。

「もう喋るな、サンジ」
「っ……!!!」

おお。どうやら効果は抜群だったらしく、コックはぴたりと口を噤んでしまった。密着した胸からははっきりと分かるほどの心音が伝わってくる。そう言えばこいつの名前を呼んだのは初めてだったか。とにもかくにもようやく素直に言うことを聞いたコックに大いに溜飲を下げた俺は、少しだけ体を離してその顔を覗き込んでやる。いつもは何処か不機嫌そうなその顔は耳まで見事に赤く染まっていて、思わず口元が綻んだ。

そして俺は、吸い込まれるようにコックの唇に自分の唇を近付けていった。
の、だが。

「痛って!!!!!」

ようやく唇同士が触れたと思った瞬間、ガリッ、という嫌な音がした。
「な………」
あろうことか、コックが俺の唇に勢い良く噛み付いてきやがったのだ。俺は思わず目の前の体から両腕を外し、片手で口元を押さえながら一歩後退して叫ぶ。

「なっ、何しやがるアホコック!!!」
「う、うっせぇ! このエロマリモ!」

あまりの仕打ちに、つい数秒前までの甘いムードなど一気に吹き飛ばされてしまった俺は、コックを指差して怒鳴り声を上げる。

「何考えてんだテメェは!? 今、本気で噛み付いてきたな!? 見ろ、血が出てんじゃねぇか!」
「知るか! 待てって言ったのに聞かねぇテメェが悪い!」
「待てるわけねぇだろ! 誰が見てもめちゃくちゃ良い雰囲気だったじゃねぇか! 照れ隠しも程々にしろよ!」
「黙れ、クソ剣士! 勝手に雰囲気出してきたのはテメェの方だろ! うっかり名前なんか呼びやがって!」
「名前ぐらい呼んで何が悪い! 大体、野生動物じゃあるまいし噛み付くこたぁねぇだろ! ったく、せっかく素直になったと思った途端に…………………」

何なんだこの男は、どうにかして本気で泣かせてやろうかと完全に逆上していた俺だったが、こちらを睨みつけるコックの目を見ている内に言葉が止まってしまった。そしてそのまま、片方だけ晒された奴の蒼い右目に釘付けになる。

顔中真っ赤にして息を弾ませているくせに―――その瞳は、好き勝手に翻弄されてなるものかというコックの意地の強さを確かに覗かせていた。こんな野郎を相手に従順な態度をとってたまるかという、こいつらしいプライドの高さを。

それでいて何処か潤んだその瞳は、まるで俺を誘うかのように妖しく光っても見えた。素直になれないこいつの本心が、もっと触って欲しい、もっとして欲しいと無言で俺に訴えかけてくるように。

男としての矜持と秘められた欲望が入り混じった、深い深い蒼の、瞳。

「―――へぇ」

なるほど。俺は唇に滲んでいた血を舌でゆっくりと舐め取る。自分が無性に燃えてきているのを感じた。これはそう、戦闘でなかなかに手強い敵に遭遇したときの気分に近いかもしれない。なるほどな……こいつのことだから簡単には懐いてくれそうもねぇし、一筋縄ではいかないだろうと思ってはいたが。

これは、相当―――落としがいがありそうだ。

「な、何にやついてんだよ、気色悪ぃぞクソ剣士」
「いや……お前の言う『レディ』とやらに嫉妬する必要なんざまるで無かったな、と思って」
「は?」
「『女』ってだけで誰彼構わず振りまかれるような、安っぽい真っピンクのハートの目ん玉なんかより、」
生意気なコックの顎を軽くつまみ、もう一度ゆっくりと顔を近付けて行く。

「こっちの瞳の方がずっと、俺の好みだからな」

そのまま目元にキスを一つ落としてやると、俺を酔わせる蒼い色がまた少し、その深さを増したように見えた。
作品名:bluer bluer 作家名:あずき