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落日

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星が瞬く、

隔離された園内の高い木の上から、型も枠も無い空の闇と、故に輝いて見える星々をみつめながらぼんやりとした。

忍び装束を脱ぎ、薄い寝巻きで時折吹く風に、柔らかで癖の無い髪をなびかせる。
木々と虫たちのざわつき。

安堵にも焦燥にも似ない、胸のうち何かが破裂しそうな表情は、幼き頃より自らの手で作ってきた何代目かの狐面により、外界に出ぬ様にそっと蓋をした。

生きて素顔を空気に晒すことなど、もう何年もしていない。
顔も髪も表情も声色もこころ、も年月を追う毎に「だれかの」ものに特化している。
それが自分なのだと思ってきた。
それが自己なのだと叩き込まれたのだから。
必要なものは吸収し、不必要なものはかなぐり捨てる人生だ。

故に


故に、脈拍とは異なり胸を打つこの感情は

完全に禁忌



なのに。





風を受けて、目を閉じた。
冷える夜風に晒されて、精神を律しなければいけない。
3秒数えれば、元に戻れる。
彼の、顔に戻り、いつもと同じ飄々とした態度で風を切って奔れる。
自分は鉢屋だ、忍びに成る、他に何も持ち得ない。
故にこの感情は禁忌だ。


わかっている。
抑えなければ、抑えなければ、消さなければ


呼吸を整えて、


1、2、

みっつ、数えるまでに私は膨大な時間を闇に溶かした。




作品名:落日 作家名:トマリ