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ありえない

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(あ〜ここどこだっけ?)

うららかなある日曜日。
見たことがあるよな、ないような街並みを眺めつつ人混みに紛れて歩きながら俺は、気楽にそう考える。

【ありえない】

昼1時に藤沢女と合コンする約束をしていてちょうど1時間前に家を出たというのに、どういうわけか道を間違えてしまったらしい。
ずっと同じところをずっと人の流れに流されるままに歩いて、いつまで経っても待ち合わせの場所に辿りつかないでいる。

(・・・・・・今、何時だろ?)

携帯のディスプレーを開いて時間を確認する。見れば、約束の時間はとっくに30分は過ぎていた。

(ま、いいか)

合コンは楽しみにしていたんだが、こうなったら仕方ない。
特に悪びれもせずに、パチンと携帯を閉じる。途端に鳴り響いた着信音。俺はまたディスプレーを開いた。

「もしもし」
『ヤマケン!』

通話ボタンを押したら激しく怒っているだろうツレの声が、耳に飛び込んできた。

『テメーっ、1時っつっただろ!今どこにいやがるっ』
「あー、どっかの街?」

見渡して正直な感想をいった。

『ハァ!?』

それがいけなかったのかツレが携帯の向こうでキレたのがわかった。

『ふざけんなっ、まさかテメーまた迷子か!』
「−−−−−迷子じゃねぇ」
『フザけんな、この迷子野郎っ!』
「あ〜〜迷子じゃねーから、もちっと待ってろよ」

マシンガンのごとく怒鳴ろうとするツレに呆れて、俺は携帯をさっさと切った。

(しかたねぇ、タクってくか〜)

目的地まで歩くのもこれまた面倒だし、これ以上ツレと藤沢女のオンナ待たせたら後がうるさい。
幸いにも車の往来は、ある。携帯で電話してタクシーを待ってればいい。
そう思いつつ、角を曲がろうとした時。見慣れたツインテールの頭が見えた。

(あれは、)

路肩で停車している黒塗りの車と歩道に立っている水谷雫の姿だった。
車の主と何かを話しているだろうその姿を見て、我知らず胸が高鳴る。
こんなところで会えるなんて、マジありえない。
当初の目的なんかどこへやら、俺はそこから動けずに立ちすくんでいた。

水谷 雫。
俺と同じ進学予備校に通う、勉強大好きガリ勉女だ。
同じ予備校に通っているっていうのを知ったのもつい最近のことだ。
水谷雫と顔見知り程度になったのには、あるきっかけがある。
きっかけとなったのは俺と幼なじみの吉田 春だ。
ハルは結構な問題児で有名なのだが、そのハルが懐いている数少ない1人が水谷だったというわけだ。
水谷は、地味な外見をしていて今時のオンナみたいに色気も洒落っ気もない。
いつもクールな表情で参考書ばかり読んでいる。いつぞやは模試の成績を見て「自分が総合トップだから」と豪語しやがった。
−−−−でも。
顔見知り程度になって、それから口数が増えればなんでか自分でもよくわからないが、水谷を自然と気にかけるようになっていた。
頭では「こんな色気もねーガリ勉オンナに食指が動くかっ!!」とは思っていても、水谷の一挙一足に勝手に胸が高鳴る。
それを意識すればするほど、絶対ありえないと思うのに。
目が離せないんだ。どうしても。

(何、話してんだろ・・・・・・)

店の壁に寄りかかり、腕組みをして水谷を眺める。
偶然会えたというのに俺から声をかけるのも?躊躇うほど水谷は車の主としきりに何かを話こんでいる。
何を話しているんだろう。ここからは内容までは聞こえない。
水谷がその誰かと話しているだけで、ひどく気になってしまう。
そう思った途端、俺は小さくため息をついた。
どう見てもまだ話が途切れないのは見え見えじゃないか。
それに、俺がここにいる事も水谷は気づいてない。
・・・・・・よく考えれば俺は水谷に一度も声をかけてないし、ただここから見てるだけだった。
そりゃアッチから気づくのを待ってるなんて虫が良すぎるよな。
なんとなく空しくなって頭をかき、ふと当初の目的を思い出した。
ここに自分がとどまる意味がない。そう思って諦めそこから歩き出そうとして−−−−−−−−やめた。

(あれは、ハルの)

車の主が初めて誰なのかわかった。

「−−−−−−−−水谷サン、」

俺は、水谷の名前を呼んでいた。


その後いろいろあって俺は、水谷と行動を共にすることになった。
水谷に連れられて行ったのは電気屋。そこで2時間も粘って購入したのはなんと電子辞書だった。
水谷はそれが欲しかったらしい。とても嬉しそうだ。
俺はといえば、2時間も電気屋に長居した事に軽い衝撃を受けていた。
だって女といるとこじゃないだろう、どう見ても。
それから休憩と称して2人でスタバに寄った。
水谷と一緒にいるだけでなんとなくデートっぽい気がして俺はガラにもなく浮かれていたが、何気にハルの事を相談されて一気に現実に引き戻された。
わかってた事だけどやっぱり水谷はハルが好きなんだと、思い知らされた。

そして、なんだかんだいいながらも俺はまだ水谷と一緒にいた。
夕日に照らされて影法師も木々も長く伸びていく。
俺は水谷と少し距離を置いて待っていた。
カサカサと枯れ葉が風に舞って、足下を通り過ぎていく。
風が吹くとちょっと肌寒くて肩をすぼめた。その風は水谷の髪を揺らした。
オレンジ色に照らされて俺からは水谷の顔は見えない。
いや、見ないようにしてた。
携帯の相手はハル、だ。

水谷に自分の携帯を貸してやった。
携帯を貸してやったのは単に俺の気まぐれってヤツだ。
水谷が別れ際に俺に微笑みかけたから、ではない。決して。

「あの、さっきは携帯を貸してくれてありがとう、ヤマケン君」

長電話して悪いと思ったのか遠慮がちに水谷がお礼をいう。

「あぁ。」

ポケットに入れた携帯を何気なく触りながら俺はぶっきらぼうにそう返事をする。
そしてさっき、なんであんなこといったんだ俺?とぼんやり思う。

『こっちももう、ひかねーし』

ハルに対して、我ながらなんて挑発だよ。
無意識に口から出た言葉だからって、そういう自分に今更ながらびっくりだ。
けれど俺は何故かハルにムカついていた。原因は水谷だ。
いつもは、クールなくせにハルと話す時はうっすらと淡いピンクに頬を染めて、柔らかな表情で水谷は話す。
そして俺の携帯を借りておきながら、そこにハルがいるみたいに微笑むんだ。
もうわかっている事だけど水谷にそんな表情をさせるのは紛れもなく、ハルだけだった。
それを認めるのがなんだかとても嫌だった。
あんなことをいった後でいうのもなんだが・・・・・・もう、後には引けない気がしてる。
素直にそれを認めてしまうには、やっぱプライドが邪魔しているけど。

「ヤマケン君、じゃあここで。」
「ああ。」

水谷が角を曲がる。俺はそれを見送ったが突然、水谷がヒョイと顔を出してじっと俺を見つめた。

「・・・・・・な、なんだよ、」

そのまま帰るものだと思った俺は思わずたじろいだ。まさか戻ってくるとは思ってもいなかった。

「帰るんじゃねーの?」
「ヤマケン君、迷子にならないように気をつけてね。」
「?!ならねーよっ!!」

暗に水谷に子供扱いされた気がして、俺は怒鳴った。
作品名:ありえない 作家名:ぐるり