ありえない
ここまで来て迷子になんかなるもんか。キッと睨みつければ水谷の目が笑った気がした。
「そう?じゃあ、またね。」
「!」
無表情にそういいおいて、今度こそ角を曲がって帰って行った。
俺は、言葉もないままにそこから動けずにいた。
「〜〜あ、アイツ、」
不意打ちのような水谷の行動に胸の高鳴りが止まらない。
ハル意外には眼中にないくせに、なんで、あんな風にするんだ。
「はぁ〜〜やっぱ、俺って終わってる?」
俺は、髪をかき上げて途方に暮れた様にそうつぶやいた。
よりにもよってハルを好きな、色気も洒落っ気もない地味なガリ勉女にこの俺が振り回されてる。
今までの俺なら絶対にありえない。
「ハルが好きな女で、ハルを好きな女・・・・・・か」
思えば思うほど、叶わない恋なのに。
俺も、つくづくバカなんじゃなかろーか。
「・・・・・・もう帰った頃、かな?」
不意に俺の頭の中に走馬燈のように今日1日のできごとが過ぎった。
スタバで電気辞書の入った袋を嬉しそうに眺めてる、水谷の顔。
さっき別れた時の悪戯っぽい顔をした、水谷の顔。
そして、淡いピンク色に頬を染めて嬉しそうに携帯の向こうのハルに微笑む水谷の笑顔・・・・・・
『そんなんじゃミッティには一生、通じませんよ』
不意に水谷の友人のあの何もかも見透かしたようなヘンな女の声がエコーのように頭に響く。
それを思い出して思わずムカついた。
「・・・・・・やってやろーじゃん」
俺は自分で自分を励ました。
そうさハルを好きだろーと、なんだろーともう水谷に対する気持ちを引っ込めることはできない。
なら、行動を起こすしかない。水谷を俺に振り向かせるまで。
そこまで考えて俺はハッと我に返る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱ終わってるわ」
ハハハとカラ笑いした。
改めて思い知る水谷への想いに、俺はまたもや軽い衝撃を受けていた。
fin.