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魂の契り

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宵闇がこの広い大地を支配し、少し肌寒さを感じさせる夜風が吹く中、ただ1人、立ち尽くす者有り。
 夜空には満天の星。その祝福を得て輝く月の白さに、恐ろしさを感じる程。
 灯りなど無くとも容易に辺りを見渡せる地の上を、何とも無しに歩くその姿には、一抹の不安と寂寥感を抱かせる。
 つい手を伸ばしたくなるのに、それを躊躇わせるのは、その者の持つ生来の気質か、それとも別の何かか。
 風に攫われて靡く髪。それでも、表情を窺い知るのは困難だった。



「曹丕。」
 サクッ、と地面を踏んで声を掛けた主は、その消えて無くなりそうな背に呼び掛けた。
 ふわりと、それまで目的も無く進めていた歩みを重力など感じさせない所作で止めた。
「何用だ。向こうであやつらが開いた宴が催されている筈だが。」
 振り向いたその顔には、これと言った表情は浮かんでいない。
 常と変らぬ、無表情。

 涼しげな顔に、寄せられた眉。
 瞳は灰に近い青、決してくすんではいない、深い色合い。
 その鮮烈なまでの強い眼差しは、傍から見ると無意識に敬遠させられがちになるが、
一度その本来の魅力に気付いてしまえば、そこから動く事すら容易で無くさせる、まるで引力のような瞳。

 常と変らないように見える表情。
 だが、その瞳がどこか、濁っているようにも見える。
 纏う雰囲気が儚げな印象を抱かせるのも要因だ。

「三成、何しに来た。」
「御挨拶だな。お前を探しに来たのだが。」
 そう言って歩み寄る三成を、曹丕は微動だにする事無く待っている。
 一歩一歩、近付いて行く距離。
 一歩一歩、狭まって行く間。
 その幅が狭くなる毎に、2人の視線が強く絡まって行く。

 ついにその距離が、互いの身体に触れる事が容易な位置にまで達した時、ふいに三成が曹丕の頬に手を伸ばした。
「・・・・・・・」
 決して抗う事はせず、なすがままにされている曹丕を知っていてか、その手が少しずつ降りて、腕をしっかり攫む。
「何時からここに居たのだ。随分と冷え切っているではないか。」
 口調は呆れているが、浮かぶ表情は真剣そのものである。
 厳しい表情を崩さぬまま、掴む手に力を込めた。
「常日頃から、お前は自身に対する配慮が足らな過ぎる。」
 そう言い、自身の羽織る陣羽織を脱ぐと、曹丕の肩へと掛けた。
「無いよりはマシだろう。羽織っていろ。」
 感じる他人の温もりに、何故か安心した曹丕は、変わらない表情に、少し安堵の色を乗せた。



「本当に、どうしたのだ三成。」
 どこか違う、と言う曖昧な感情を、曹丕自身も三成に対して抱いていた。
 張り詰めている、とまでは行かないものの、何所か余裕の無さそうな。
「・・・・・・それは、俺の台詞なんだが。」
 絡む視線が、互いの心の中を覗こうと、交錯する。
「何?」
「お前、近頃おかしいぞ。何をそんなに考えている?そうだな・・・おかしいのはつい先日からか。」
 目を細める三成から、曹丕は逸らす事が叶わない。
「お前、知っているか。お前が本当に考え事をしたい時、絶対城の中には居ないのだ。
大抵が城外の、周囲に何も無い、煩わされる物が何も無い所まで、無意識に求め彷徨っている。しかも、殆どが夜だ。」
「・・・・・・・・・」
「何か反論があるなら言ってみるが良い。」
 確固たる自信を持って言い放つ三成に、曹丕は反駁の余地すら奪われた。
 否定?その必要があるか?
 そう、問われている気すら起こさせる三成の言に、曹丕は深々と溜息を吐いた。



「・・・貴様に気付かれているとは、な。」
 此処へ来て初めて視線を逸らした曹丕に、三成は不敵に笑った。
「馬鹿を言え。俺がどれだけお前を見てきたと思っている。」
 そうして一歩下がり、間に人が1人入れる程度の距離で、改めて、2人の視線が合った。
「俺にまで隠し事をしようとするのが間違いだ。・・・そんなに俺は、頼りない、か?」

 陰る三成の瞳を見詰め、再び、曹丕は深い溜息を吐いた。
「出来得るならば、言いたくは、無かった、が。」
「曹丕。」
 クルリと三成に背を向け、曹丕は再びゆっくりと歩き出した。
 その後ろを、三成はついて行く。
 その足取りにすら不安を抱くのだから、三成の心はあまり穏やかではいられない。

「・・・・・・遠呂地は、遂に去った。長かったな。」
「あぁ。」
 ぽつりと漏らされた風に消えそうな言葉を、三成はしかと拾った。
 頭上の月が、突如流れてきた雲に隠れて、光が遮られる。
 明暗が入り乱れる地上は、酷く不安定な様相を模っている。
 その上を、迷いながら、止まりながら、フラフラと、あても無く。

「貴様は、何故だと思う?」 
「あ?」
「何故、戻らなかったと、思う?」
「曹丕?」
「この世界が、このまま残った、その訳を。」



 歩く振動に合せて揺れる曹丕の髪が、まるでそのまま曹丕を表しているようにも見えた。
 不安定なまま、あちらこちらへと、振れる、振り子のように。
 行く先を求め、立ち止まる場所を求め、求め続けて、未だ得られぬ答えを、只管に模索する、その生き方に。



「女カが、言っていたのだ。父に。」
「・・・・・・あぁ。」
「仙人の力を以て、この混沌とした世界を、元に戻すと。無理矢理繋がれた世界を、在るべき処へ返すと。・・・その意味が、分かるだろう?」
「当たり、前だ。」
 見えない表情に、不安よりも悲しみが募る。
 どのような顔をして言っているのか、それを、ただ1人噛みしめ、思っていたのか。
 互いが互いに、考えねばならない事なのだ。どちらに寄り掛かって出して良い答えでは決して無い。
 この場合、曹丕だけがその事実を知り、己の中だけで清算しようとしていた事になる。
 それを不平等だと言う資格を、三成は持ち合わせていない。
 全ては曹丕自身の判断によるものであり、この事実を知る術など、三成とて持っていたからだ。
 だのにそれをしなかったのは三成の怠惰故の事であり、それは彼自身の弱さから来るものだった。

「と、言う事は・・・・・・何時だ?」
「分からぬ。だが、その内だろう。三国、戦国が一同に会したその時こそが、来るべき時だ。」

 その時こそが。

 2人の、真の別れとなる。






 錚々たる顔ぶれが並ぶ。
 三国の英雄も、戦国の英雄も。
 それぞれが、それまでの苦を労い、出会いを喜び、そして別れを告げている。
 仙界からの使者であると言う太公望を含む3人、加え半幽霊にも近しい源義経の姿もそこにはある。
 いよいよ、世界を分かつ時が訪れたのだ。

 三成も曹丕も、この日を覚悟してはいた。
 だが、それ故に、互いの顔を直視する事が出来ず、避けられぬ運命にそっと心から血を流した。
 表情には微塵も出さぬ2人の心情は、その事実を知る者のみだけが共有出来る痛みでもあった。
 それを口に出さぬのは、皆が同じ業を背負っているから。
 誰もが思い、悲しみ、明日への階へと足を掛ける。
 胸中の思いの深さに優劣をつける必要などありはしない。無意味だからだ。
 立ち止っている訳にはいくまい、分かってはいるようだが。
作品名:魂の契り 作家名:Kake-rA