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池袋最強が負けた日

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「あいつはどこに居んだぁ?」
ぐるりと首を回して周囲を見渡す。
「……んんー」
足でリズムを刻みながら低く唸る。
ヘッドホンをしていて自分の声が聞こえないのか、かなりの大声である。
男の異様な様子に、周囲からはどんどん人が消えていく。
興味本意で遠くから写メを撮っている不良少年たちもいたが、男はそんな周囲には一切関心がないようだった。
恐らく30秒後にはダラーズのメンバーの元に彼の写真がばら撒かれるのだろう。
男はリズムに合わせて揺らしていた腕をスッと降り下ろして脇にあった標識を手にとった。
「でぇーてーこーいぃー……」
それをやり投げの要領で近くの映画館の看板に向かって投げつける。
「平和島静雄ぉっ!」
精度は限りなく正確で、標識は見事に今上映中の映画『執事たちの沈黙2』の主演、平和島幽の顔にめり込んだ。


その頃本物の平和島静雄は。
「お疲れさまっす」
「おぅ。事務所に戻って報告したら上がりだな」
「今日は早かったっすね」
今日の分の取り立てを全て終えて上司とサンシャイン通りの外れを歩いており、まっすぐに飛んだ標識が幽の巨大な顔写真にめり込んだのを少し遠くから目撃していた。
静雄の眉間がぴくりと動く。
「なんだぁ?今の。静雄じゃあるめーし……」
呆けた様子で呟いたトムに静雄は
「ちょっと見てきます」と低い声で素早く言うと、返事も聞かずに駆け出していた。
額に青筋の浮いた静雄の横顔に、トムは「うわぁ悪い予感しかしねぇ」と大げさにため息をつく。ああなった静雄を止められる者はいない。
例え上司の自分であっても。
これはどうやら、遠回りした方がよさそうだ。
「先に事務所戻ってっからなー!」と静雄の後ろ姿に投げかけ、今しがた歩いてきた方に足を返した。


静雄がいつもより妙に人気のない通りを走り抜け映画館の前にたどり着くと、躍りながら大声で鼻唄を歌い悦に入っている白スーツの男を発見した。

「手前かァ!幽の顔に傷つけやがって!」
静雄は近くに放置されていたボロボロの自転車を片手で持ち上げ、男に向けて投げ飛ばした。
威嚇のつもりで投げた自転車は、意外にも見事にふらふらと躍る男に命中する。
「ぎゃふん」
どう考えてもわざとらしい声をあげて男は自転車と共に数メートル地面を滑った。
男は自転車を上に乗せた情けない姿勢でうつ伏せに地面に臥して、そのまま動かない。
「あぁ?……死んだか?」
なんだよちょっと自転車食らったくらいで…自転車だぞ?
という常人とは少し異なる思考回路を持ちながらも、静雄は動かない男にゆっくりと近づいて様子を伺う。
「おい、起きろ」
自転車を避けて男に手をのばした。起こしてやろうと静雄が身を屈めた瞬間、
男は静雄の腕をガッと掴み自分の方に引き寄せた。
静雄は突然引っ張られた勢いでバランスを崩す。
男は自転車のダメージなど微塵も受けていない様子で飛び跳ねるように体を起こすと、倒れかけた静雄の鳩尾にひざ蹴りを入れた。
空気を切る速さと見た目には感じさせない重さを持つ一撃。
低くうめき声をあげて静雄は地面に倒れこんだ。
自分が喧嘩をして引き倒されるなど何年ぶりだろうと、頭の片隅で冷静に考えながら。
作品名:池袋最強が負けた日 作家名:みぞれ