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さよなら天国、また来て地獄・2

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帝人君は大学生とかそんな感じで思って欲しいです。





 折原臨也のことをどう思っているのかと聞かれたら帝人は「特には」と曖昧に笑うだろう。
 付き合っている恋人同士なはずだが二人の間に甘い空気はない。
 あるとすれば熟年の夫婦のような「居て当たり前」とでもいう空気。
 居なくなれば多大な不便さと淋しさとを感じるかもしれないが今のところ起こり得ない事態な上にきっとそれにもすぐに慣れるだろう。
 臨也が居ることに慣れてしまったように。
 高校時代は多感な上に上京したてのドキドキを引きずっていたが四年も経てば流石に馴染む。それでもやはり都会の空気は面白い。人の集まるところはいいという外道の言葉がちょっとわかってしまうのは年をとった証拠だろうか。


 朝食の匂いに目を覚ませば隣で身じろぎする気配。
 寝癖が面白いことになっている親友の頭を帝人は叩く。
「ゆめだ」
「現実だよ」
「ねむい」
「正臣、死ぬよ」
 帝人の言葉にベッドから転げ落ちた正臣。
 今までいた場所にボスンと音を立てて包丁が刺さる。
 正臣が落下以外の衝撃でふるえるのを見て帝人はため息をつく。
「ウォーターベッドだったら水浸しですよ?」
「てっきり沙樹ちゃんかと思ってたんだけどさぁ」
「私はここです」
 臨也の隣でエプロンをつけた新妻のような沙樹が手をちょこんと挙げる。
 床にいる正臣は包丁のきらめく刃に血の気が引いたようだ。いやな目覚め。
「臨也さん噛みしめる用のハンカチならここに」
「この泥棒猫っ! 間男展開なんか望んでませんっっ」
 沙樹からのハンカチを噛みしめるのではなく正臣にぶつける。
 微妙に高い声で昼ドラのノリを演出する恋人に向ける帝人の瞳は冷たい。
「正臣、着替え僕のでいいかな」
「あ、ああ。悪いな」
 帝人は「いいよ」と微笑んで慣れた手つきでクローゼットから服を取り出す。臨也が勝手に買い揃えたもので帝人は三分の一も着ていない。
 適当に正臣が着ても違和感がないだろうデザインを渡せば臨也の瞳はどんよりしていた。いい気味である。
「包丁は投げるものではありませんよ」
 帝人はベッドから抜いた包丁の柄の部分を沙樹の手に握らせる。理解したようで頷き「ちゃんと消毒するね」と笑って台所へ向かう。
「なに? ここで着替えるの? 野獣に肌を見せるの?」
「ああ、そうですね。はいはい出てってください」
「違うっ! 野獣は俺じゃない。どう考えてもっ」
 ばったんと扉を閉めて帝人は困ったような正臣に「朝からうるさいね」と笑う。疲れたように「そうだな」と正臣は深い溜め息をついた。