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【DRRR】かくれミノ【戦争サンド】

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『かくれミノ』




「あはは、また会っちゃったねー」
「……臨也さん…」

この人、ほんと暇なのかなーなんて思いながら帝人は虚ろな表情で振り返る。
本来、新宿を拠点に仕事をしている人だし、池袋に来たら犬猿の相手がいて喧嘩が勃発してしまうからほとんど来ないはずだった。
以前、幼馴染から聞いた噂では、それまでは全然来ていなかったのに、最近の池袋での出没率は異常なんだということだ。
彼が何を目的にここまでやってきているのかは分からないけれど、自分の目の前への登場頻度を考えると、僕をからかうことも目的の1つに入っているのではないかと思えてきてしまう。

「どうしたんですか?ここのところ毎日ですよね」
「え、何?そんなに俺に会えて嬉しい?あはは、悪いけど俺、今日はこれから仕事があるから君とおしゃべりしている暇はないんだ。残念だけど、一緒にご飯食べるのはまた今度ね☆」
「……語尾上げないで下さい……」

そもそも自分はこの人と食事をする約束なんてしていない。
まあ、奢ってくれるというのなら邪険にはしないけれど、ただのお人よしとか、先輩風吹かせたとか、そういう可能性は有り得ないので、本当の目的がはっきりと見えない以上、警戒が必要だろう。
まだ何か話し続けている臨也が、おもむろに上着を脱ぎ始めた。
何をする気かさっぱり分からない。

「帝人くん、ちょっとコレ着てみてくんない?」
「は?嫌ですよ。臨也さんの香水の匂いが移るじゃないですか」
「あ、大人の香りにメロメロになっちゃうから無理?そういうことなら仕方ないかー。帝人くんったら意外とおませさんなんだから!」
「わかりまして、着ればいいんですね」

フード部分に白いファーの付いた真っ黒のコート。まだコートを着る時期ではないように思うんだけれど、夏はコレと同種の夏コート、冬はコレと同種の冬コートを着ているのだから、この男のこのコートに対する愛着というか何というかは激しいようだ。
ずっと着ているものを自分に差し出すなんて、この人何がしたいんだろう。

「で、これで何がしたいんですか?」
「えーと、だいたいもう1サイズ小さくしただけでいけるかなー。あ、でも帝人くんの身長に合わせたら裾はもう少し短くてもいいかな。あと個人的な希望としてこの袖のダルダル感は残しておきたいよ」
「……何の話ですか?」
「え、だから、俺のペアルックを」
「何の話ですか!?」

何でこの人とお揃いの服を着なきゃならないんだろう。だいたい何で着ると思ってるんだろう。
そもそもこの人ペアルックって言った。ペアルックって。時代がおかしいんじゃないですか?あ、おかしいのは頭ですね、わかります。
臨也さんの脳内で何がどうなってるのか分からないけれど、半ば睨みつけるような視線を送れば、臨也さんは少し苦笑した表情で僕を見ていた。
珍しい顔を見せたものだ。いつも自分のことなんて卑下するか玩具を見つめる表情でしか見ていないくせに。

「帝人くん、今日ちょっとその服貸すよ。俺もう仕事行かなきゃ」
「え、いらな…、ちょっと!」

臨也さんの足の速さ、というか姿を消す早さにはいつも驚かされる。
何を急に慌て始めたんだろう。

「いーざーやーくーん」

わざと間延びして呼ばれる低く響き渡る怒声。
背後から向けられた声に、瞬時にその相手が平和島静雄だとわかる。
つい今まで臨也さんがいたのだから、その姿を見つけたんだろう。でも残念ながら、臨也本人はいち早く気が付いて去ってしまっていた。
振り返って静雄を確認しようと思って、その声が全く、先に行った男を追っていないことに気が付いた。そして、自分が今、どういう見た目をしているのかに気が付いた。

「てめー、ぷんぷんぷんぷん、臭ぇーにおい撒き散らしやがって。池袋には二度とくんなって、俺はてめーに何回言ったぁぁぁぁぁああああ!!」

マズイ。
マズイ、マズイ、マズイ。
っていうか、ヤバイ。

風を切る音は、恐らく標識が向かっきているからだ。
避けなければ、と思いはするけれど体が動けなくて、自分は臨也さんじゃないと声を上げたくても悲鳴も出なくて、あ、これもしかして金縛り、とか一瞬で考えが浮かんで消えた。

「ちょ、帝人くん避けなよ!!」
「っ!?」
「ああ゛っ!?」

あわや当たる、と思った瞬間に、そのすぐ頭上を大きなものが通り過ぎた。
その爆風のような勢いに飛ばされて、横倒しに尻餅をついてしまう。

「てんめぇ、そーこーかー!!」
「うわ、ちょっとシズちゃん!」

もう1度すぐ傍でブンと大きな音がしたかと思えば、目の端に何か大きなものが飛んで行ったのが見えた。
恐る恐る目線をずらせば、少し先の歩道橋の上に道路標識が突き刺さっていた。他に人影は見えない。
なるほど、あそこから臨也さんが助け舟を出してくれたわけだ。

「っち、逃がしたか……、で、てめーは何なんだ?」

怒気を含めたままに静雄さんの声がかかる。
返事をしないといけないのに、情けないことにすっかり怯えて腰が抜けてしまっていて、立つこともまだ声を出すこともも出来なかった。

「おい、聞いてんのか!?」

ぐい、っと強い力で引っ張られ、腕に痛みが走る。

「っい゛!」
「…み、帝人!?」

さっきの標識が直撃したらこんな痛みでは済まなかったと思うと、何だか腕の掴まれた痛みがようやく自分を現実に引き戻してくれたもののようで、ようやく声が出せる。
フードの中身を覗き込んだ静雄さんは、すっかり怒りは収めて、ただ驚いたように目を見開いていた。珍しくサングラスを掛けてない、…ということは本気で臨也さんを殺そうとしていたのだろう。…それはまさしく、人違いの自分なんだけど。

「……し、静雄さん~」
「お、お前、なんでそんな格好してんだ!」
「さっき無理矢理、臨也さんに~」

安心感と静雄さんが自分を狙う気はさらさらないという確証に、ちょっと泣きたくなった。
静雄さんはもう1度臨也さんが消えた歩道橋とその周辺を見渡し、舌打ちをして呪うようにその名前を呟いた。ノミ虫、と。
ほんと、自分を身代わりにして逃げた臨也さんなんて、虫でいいと思う。
自分には体力も頑丈さ素早さもないんだから、もし静雄さんに狙われたりなんかしたら逃げ切れるはずがないのだ。そんなことあの人の頭ならすぐ分かるはずなのに、こんなコート着せて身代わりにして。
さっきの助け舟の一言に、助かった、と思った感情を塗りつぶした。
そもそも危険な状況にさせたのはあの人なのだ。

「……わりぃ。いや、謝って済むことじゃねーが、人違いでお前に大怪我させるところだった」

頭の後ろを掻きながら、静雄さんがペコリと頭を下げる。
僕はようやく自分の足をついて立ちながら、力なく顔の前で手を振った。

「いえいえ、元はと言えば全部臨也さんのせいです。僕のほうこそ、こんな紛らわしい格好していてすみません。今すぐ脱ぎますから」

どこも怪我してないか、としきりに尋ねる静雄に笑ってみせ、脱いだコートを腕にかけた。
それを、静雄さんは貸せとばかりに手を差し出す。

「え?どうするんですか?」
「捨てるんだよ」