【DRRR】かくれミノ【戦争サンド】
結構いいブランドのものでまだ新しいとは思うのだが、静雄さんは問答無用でそのコートを取り上げ、近くの飲食店裏の青いポリバケツに突っ込んだ。
貸すよ、と言われたものなんだから、ちゃんと返さないといけないんじゃないかなとか、勿体無いとか、ちょっとだけ思っただけで、その行動を止めはしなかった。
どうせいっぱい持ってるんだろうし。
これについてはきっとあの人も文句は言えないはずだ。
「あー臭ぇー。おい帝人、お前もノミ虫臭くなっちまってんぞ。早く風呂入れよ」
「あ、はい。そうします」
そう返事をして静雄さんに笑いかけると、ほんの少しの間が開いてから、静雄さんの手は胸ポケットへと伸びた。これもたぶんどこかのブランドモノだと思われる、いつも静雄さんがつけているサングラスが取り出される。
自分がかけるのかと思ったが、手馴れた手つきで広げられたサングラスは、なぜかこちらへと差し出された。
「何ですか?」
「……あんなヤツのもん着けるんじゃねー」
…つまり、今度は静雄さんがいつもつけているモノを貸してくれる、ということですか?
えーと、これ何の張り合いだろう。
悩んでいるうちに、無骨で大きな手が目の前に伸びる。
驚いて目を閉じれば、耳の上に指先が触れて、離れた。
「…よし…」
これで、良しなの?
恐る恐る目を開けば、世界が中途半端に下半分だけ青い。
静雄さんのメガネのフレームが大きすぎて、半分ズレ落ちているのだ。たぶん、というか絶対、子供が悪戯してかけてるみたいな童顔に拍車をかけるようなタチの悪い状況になっているだろうと予想がつく。そもそも自分にサングラスが似合うはずがない。
でも見上げた男は、それはそれは満足そうに頷いていた。
「あ、ありがとうございます…」
これいつまで借りておけばいいんだろう。
そんなことを思いながら、青い色をした池袋の街を歩いていった。
「ちょ、帝人くん、何それ!ほんと似合わないから止めなよ!あとすっごい寒いんだけど、コート返して」
「ああ、あのコート。静雄さんが捨てました」
「え、何それ、マジで笑えないんだけど。あとそのサングラス貸して」
「どうするんですか?」
「気が済むまで割る」
「渡しません」
「帝人くん!その潔い拒否、俺のコートが捨てられるときにも言ってくれた?ねぇ、言ってくれたよね!?」
「ウザいです」
作品名:【DRRR】かくれミノ【戦争サンド】 作家名:cou@ついった