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Nostalgia - first encounter -

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――誰か、誰か。だれ、か。

津軽がそんな思いを回線に乗せるようになったのは、単に寂しかったからという理由ではない。人間により近い感情を持つ存在にと、製造主が自らの手でプログラムしたものを津軽の中に搭載されてしまったせいで芽生えてしまった感情があったのだ。だが、そんな思いは決して届く事はないと彼自身よく知っていた。人間の感情を理解するのと同じように己の抱いた思いでさえも理解してしまった彼は心底悩んだ。それを誰かに相談したくとも、津軽の相手になるのは己のマスター、製造主、そして、マスターの助手である波江だけだ。マスターには絶対に言えない。こんな感情を芽生えさせるようなものを作った製造主なんてもってのほかである。だからと言って、波江にも言う事は出来なかった。彼女は機械である己がそんな相談をしたところで「そう」の一言で終わらせる。彼女は良いアドバイスはくれないだろう、津軽はそう思いこみ、長い時間己の中で生まれてしまった感情を抑えつける事しかできなかった。 ――その結果、ここにはいない《誰か》に救いを求めたのだった。

そして、今日という日に、その反応があった。相手はまだ幼いようだが、話し相手をしてくれるのであれば誰でもよかった。そうする事で少しでも気持ちが落ち着くのであれば、それで。
「どうしたの、津軽。やけに嬉しそうじゃないか」
「マスター」
すっと瞼を開けると、少々驚いた様子で己を見ている赤い瞳があった。その視線を受け止めながら津軽はゆっくりと坐していたソファから立ち上がりマスター――臨也を見やった。そんな相手に臨也は刺して気にした様子もなく傍らにある古めかしいパソコンへと視線を落とし、カタカタカタと音を立てて何かをしている。ゆっくりと近づいていけば、片手を目の前に差し出される。それに首を傾げる事もなく、津軽は耳の後ろからひゅるりと青いケーブルと取り出しその手に載せた。カチリ、とそのパソコンに繋げるなり、津軽の目の前に幾つもの画面が浮かびあがり、高速に処理をこなしていく。
『このデータは』「廃棄して」『マスター、このメールは』「それは暗号を解析したらリストにして出して」『必要なデータは』「一つは見つけた。もう一つは津軽の使える手で探し出して、多分ある場所は――」と津軽と臨也の間で作業が一気に行われていく。それは津軽に取って慣れた作業だった。臨也に引き取られた当初から彼と共に行ってきた作業の一つだ。特に気にした事もなく、津軽は臨也から送られてくる情報を処理・分析・消去・集結、させていく。あっという間に臨也のパソコンに溜まっていた情報が加工され、幾つかの情報と鳴って残される。
「君のお陰でだいぶ俺の仕事も楽になったよ」
「そうか、だったら構わない」
プツッと音を立ててケーブルがパソコンから引き抜かれ、津軽は臨也から離れキッチンへと向かっていく。慣れた手つきで波江が準備していたのだろう珈琲メーカーに入っていたそれをカップに入れて、臨也に手渡した。
「ありがとう。それで、どうしてさっきはあんなに嬉しそうだったんだい?」
「……そんなに顔に出ていたのか」
「少なくとも僕の目にはそう見えたね」
にやにやと癖のある笑みを向けてくる相手に津軽は内心で溜息を零した。そして、数分前に繋がった『回線』を思い浮かべる。これをどのように伝えれば臨也がいいだろう?津軽はそう思いながらただ一言「気になるものが、できた?」と告げた。「何で疑問形なの?」とクスクスと笑いながらもそれ以上の事を言わなかった。臨也はそういう男だ。自分が気にならない限り詮索はしない。つまりは、津軽の発言に関心を抱いてはいないのだ。それが悲しくないと言えば嘘になる。――だが、それは今の津軽にとって都合が良かった。津軽はそれ以上聞かず、また、臨也もそれ以上聞く事は無く、二人の間の空気は静かに流れていく中でそっと津軽は目を閉じた。

(また、あの『声』と話をしたい……)

そして、二人と二体が出会う日まで津軽は『声』の事を黙っていた。