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Nostalgia - first encounter -

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――そうか。また、聞いてくれるか?
俺の歌、と続けていう何者か分からぬその声に、サイケはこくりと相手に分からない返事をした。だが、それを何となく感じ取ったのか声の主はくすりと微かな笑い声がサイケの頭の中に響く。
《わらわないで!》
――悪気があった訳じゃないんだ、気を悪くさせたなら済まない……でも、ありがとう。
また聞いてくれ、それを最後に『声』はサイケの頭の中から消えた。自分ではない誰かが反応を示した事に安堵したのだろうか。どんな理由があるにしろサイケには相手の事は分からない。ただ、あまりに呆気なく去ってしまった『声』に少しだけの不満があった。折角通じたのにどうしてそれ以上何もしないのか。どうしてどうして!とサイケの頭の中でその言葉がぐるぐると回る。今度歌が聞こえたら無視しちゃおうか、等と考えながらソファをバシバシと叩いていたのだが、その直後、サイケの視界にノイズが走った。
「…………おーばー…………した……?」
キュゥン、と音を立ててサイケの視界が徐々に暗くなっていく。それは『声』に対して初めて回線を開いた事で彼のメモリ容量が超えてしまっていたのだ。どうしよう充電しないと、とサイケは思うのだが、体は鉛のように重たくなって動かない。
「おちちゃうよ……ますたー」
早く帰って来て、と呟くよりも早くサイケの視界が真っ暗に染まっていった。



ゆっくりと瞼を開けた時には、心配そうな顔をして見下ろしている主――静雄の顔があった。
「……良かった気がついたか」
「ますたー?」
ついさっきまでサイケは一人で留守番をしていた。マスターである静雄が帰って来るまでまだまだ時間はある筈だ。どうしてだろう?思わず首を傾げていると、はぁと盛大な溜息をつかれてしまった。何でそんな反応をされてしまうのかサイケには理解できない。そんな彼の困惑している事に気付いたのか、静雄は少々呆れた表情をしながらも無骨な手を伸ばしてその白い頬に触れた。サイケは血の通っていない機械仕掛けの体をしている。一部のタイプではそれでは死人の肌のようだからと体温調節機能を搭載している者もあるらしい。しかし、静雄に頬を触れられているサイケにはそのような機能はない。だが、人間のそれと大差ない弾力と柔らかさを持った肌をしている。最初はその冷たさに驚いた者の何度か触れている内に静雄は慣れていき、今では躊躇なく触れるようになっていた。それが彼にとって劇的な進歩であるとは当然のことながら彼に一から教えられ育って言っている途中のサイケには与り知らぬ話である。
「充電に間に合わないくらい何してたんだ?」
「えー……じゅうでん……?あ、そうか。おれ、とちゅうでじゅんでんきれちゃったんだった」
「……まぁいい、とりあえず充電中だから、今はここで大人しくしてろよ」
静雄はそう言ってサイケの頭にポンと手を置いた後、徐に立ち上がった。そんな彼が私室へと向かっていく様子を見ながら、サイケは思った。きっと静雄はサイケが歌でも歌っていて電池が切れる寸前のアラームに気付かなかったのだろうと思っているのかもしれない。実際にそう言った事は何度かあったから静雄がそんな考えに到達するのは無理もない話だろう。
しかし、実際は違う。それをサイケは口にする事はなかった。どうしてかは分からない。ただ、言わない方がいいと漠然と考えてしまっていた。
(へんなの、ますたーにかくしごとなんてしちゃいけないのに……でもまたあの『こえ』とはなしたいな)
そうは思いつつもサイケは『声』の主との会話を、来るべき日まで静雄に黙っていたのだった。