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蒼ノ眼

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Episode.I 
 
 底なしの海と言われた。
 優しい紫陽花の色と言われた。
 鋭い刀のようだと言われた。
 温かい空の色だと言われた。
 もう一度だけ、あなたに会えたら。
 二つのことを私は伝えたいの。
 
 ***
 
 仲山 良介は早足で医療施設に向かっていた。
 研究所には沢山の有能な医療者や研究者達がいる。
 良介もそのうちの一人にすぎない。
 ただ、彼には一つ、他のエリート達に誇れるものがあった。
 このプロジェクトを進めるトップの人間と親友であること。
 別にその事実を使って権力を手にしたり、他のエリート達をこき使ったりはしない。ただ、いつも冷静で笑うことのない彼の理解者であることが良介がエリートばかりの集団に誇れるモノだった。
 彼も良介を特別扱いすることはなかったが、他のエリート達へ向ける目よりは、柔らかいのではないかと、良介は自負している。
 そんな彼が父親になろうとしている。
 朝から、医療施設の前を行ったり来たりしている彼を見るのはちょっと面白い。
 もちろん、親友の子が生まれるのだ。自分のことのように嬉しい。
 いつか、家族ぐるみで遊びに行けるようになったらいいな、なんて大学時代は二人して笑ったものだった。自分は少し出遅れてしまったが、それでも親友である彼の子供の誕生を心から祝ってやるつもりだった。
 次第に足が早くなり、いつの間にか走っていることに気がついた。
 医療施設の中庭を抜け、施設の自動ドアに飛び込む。
 できるだけ、早く彼と彼の妻の元に行こうと、廊下を自分でも驚くほどのスピードで駆け抜ける。
 夜も遅い。関係者はほとんどいない。
 手術室がある三階まで階段を上りきった後、軽く酸欠状態に陥ったのではないかと思うくらい息が苦しかった。そのまま、ふらふらと廊下をあるく。
 暫くして、使用中のと書かれた蛍光が光るところにたどり着く。
 そこに彼がいた。少し苛立っているようにもみえる。
 良介はぜぇぜぇ言いながら、声をかけた。
 「よ、よう・・・・。」
 その姿が滑稽だったのかなんなのか、彼は少し笑うと、白衣を正して言った。
 「来てくれたのか。ところで、なんでそんなにぜぇぜぇ言ってる?」
 「さ・・・・さん・・・・三階まで階段を突っ走ってきた・・・。」
 その言葉を聞いて、彼の整った眉が不思議そうにはねた。
 「そうか・・・。頑張ってきたところ、釘をさして悪いが、エレベーター・・・。」
 「その名を言うな!!!」
 ただでさえ、酸素が足りないというのに、叫んだせいで、良介は軽く咳き込んだ。
 薄々、薄々は分かっていた。
 階段を駆け上がってこなくとも、エレベーターという現代人にはとても便利な乗り物がある。ただ、その存在に気づいたのが、三階まで上がってきた後のことだったのだ。
 だから、あえて、あえて考えないようにしていた。
 「と・・・・ところで・・・・大丈夫なのか?」
 まだ息が整っていないのか、ぜぇぜぇと膝をつきながら苦しそうに呼吸をする。
 そのことには良心なのかなんなのか、彼は全く触れずに、使用中の蛍光をみた。
 「多分・・・大丈夫だと思う。」
 「中に入らなくていいのか?」
 今の時代、出産時に夫が付き添うなんてことは当たり前だ。
 むしろ、妊婦の傍にいないなんてことの方が問題があるのではないだろうか。
 しかも、彼は医療関係者である。
 良介の最もな指摘に彼は苦笑いを浮かべて、髪を書き上げた。
 「俺は・・・あいつが苦しむ姿を見る勇気がない。」
 「苦しむなんて当たり前じゃないか?楽な出産なんて聞いたことがない。」
 「それはそうだが・・・。」
 ばつの悪そうな顔で黙り込むと、彼は深くため息をついた。
 気持ちは分かる。
 愛しすぎるがゆえに彼女と苦しみが分かち合えないのが、たまらなく彼にも苦しみを与えている。
 「・・・あと、何時間くらいかかるんだ?」
 彼があまりにも忍びなく思えたので、良介は時計を見ながら、話題をかえた。
 なんと、驚くことに深夜の2時を越えていた。
 母体の方の体力は大丈夫だろうか。
 そればかりが心配だ。
 彼は頭を抱えるようにして、うずくまると、小さく言った。
 「あと、予想では一時間もかからないはずだ。」
 良介はそうかとだけ言うと、使用中の蛍光を眺めた。
 刻一刻と時間がすぎていく。  
 親友の焦りの声を聞きながら、良介はなにもできない時間をぐっと耐える。
 何分そうしていたのだろう。
 時計を見ると、一時間以上ずっとここにいることに気づく。
 まだ、赤子の泣き叫ぶ音は聞こえない。
 ため息をついた瞬間だった。
 おぎゃぁと元気そうな声が施設の三階に響く。
 良介と親友は顔を見合わせると、お互いに声をたてて笑った。
 「桃桜さん!桃桜さん、元気な女の子ですよ!!」
 助産師が大喜びで飛び出してくるのと同時。
 桃桜 海斗は愛する妻のところに飛んでいった。
 良介を慌てて海斗と飛び込む。
 そこには、疲れた顔をしていたながらも、元気に笑う亜理紗とまだ生まれて間もない泣きつかれた赤子がいた。
 ほっと一息だ。
 体の欠損もなく、得に不自由なところもなさそうだった。
 まだ、きちんと検査しなくては分からないが、ともかく本当によかった。
 良介が涙ぐんでいると、奥のほうから、少し疲れた顔をした山本 慎太郎にこっちへこいと合図された。
 何事かと少し気が乗らないまま、慎太郎のところまで行くと、彼はいきなり、良介の胸倉に掴みかかってきた。
 「お前達、アレを試したのか!!?」
 なにを言っているのか意味がわからない。 
 アレとはなんだ。
 不思議そうな顔をしながら、睨んでいると、彼は良介を激しく揺らしながら、叫ぶ。
 「あんな年端もいかない赤子にアレを試すなんて外道のすることだ!!!」
 「なんの騒ぎだ?」
 すっかり、幸せモードの海斗が騒ぎを聞きつけてゆっくりと入ってきた。
 そんな海斗が気に入らなかったのか、慎太郎は彼を睨みつけ、今にもつかみかからんばかりに拳を振り上げた。
 「なんの騒ぎだと!?海斗、お前も知っていたのか!!」
 「なにがだ。」
 「とぼけんな!自分の娘に『最高人体細胞』を埋め込んだのかって聞いてるんだ!!」
 「なに!?」
 海斗の顔に驚愕の色が浮かぶ。
 良介もやっと理解できた。
 自分達が作り出してしまった、『最高人体細胞』。
 その細胞の能力は未知数。普通の人間には考えられない能力が身につくかもしれない。
 しかし、それは同時に人間の生態系そのものをいじるようなもの。
 悪用されることだって十分に考えられる。
 ゆえに、この細胞は発表することをやめ、永遠に葬りさることに決めた。
 クローンと同じだ。
 なのに何故。
 「そんなはずはない!娘に埋め込むことなんて不可能だ!!」
 「じゃぁ、なんで・・・。」
 「落ち着け、二人とも。なんで、山本は海斗の娘にアレが埋め込まれてるのだと思ったんだ?」
 良介に言われて、今にも殴り合いをしそうな二人はふっと肩の力を抜く。
 「眼だよ。見ればわかる。蒼い眼をしてた。」
 「青い眼なんて珍しくないだろう。」
作品名:蒼ノ眼 作家名:柏餅