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つつがなくありますように

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 その日は朝から憂鬱だった。

 以前は一年生に混じって授業を受けることの多かった斉藤が、初めて学年全体実習に参加を許された、これだけ聞けばめでたいことだ。事実斉藤本人も、先生から参加して良しとお墨付きを貰った時には心が踊っていた。
 しかしそれも、朝食時に他の組の生徒たちの「まだ早いんじゃねえか」「大丈夫なのかよ」と囁き合う声を聞くまでの、ほんの短い間だった。
(大丈夫・・・なわけないよ)
 今日の朝食は焼き魚と豆腐の味噌汁。斉藤はおもむろにお椀の底に沈んだ味噌をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
 何もあの生徒たちは、四年生にもなって陰口をたたいたわけではない。もっともなことを述べたまでなのだ。それが分かるからこそ余計に、気が沈む。
「あっタカ丸さん! おはようございます」
 声をかけてきたのはい組の平だった。ということは、と顔を上げれば、遅れて食堂に入って来た綾部が見えて、何となくホッとした。彼と斉藤がいわゆる恋仲になってからは、もう半年が経つ。
「おはよう。綾ちゃん、滝夜叉丸くん」
「おはようございます、タカ丸さん。―――いつまでそうしているつもりですか」
 えっ、と綾部の目線の先を追うと、先ほどから延々味噌汁をかき混ぜていたことに気がついた。我ながら相当キているらしい、と苦笑い。
「・・・どうかしたんですか」
 小首を傾げる綾部をかわいいなあなんて思いながら、心配をかけたくないので言葉を濁す。
「んーん、ちょっとね」
「今日の学年演習にはタカ丸さんも参加すると聞きました! この学園一優秀な滝夜叉丸、編入時からの縁にかけてしっかりサポートして見せましょう! 何しろ私は・・・」
「滝、ぐだぐだ言ってないで座りなよ。そこ」
 綾部が指した席は斉藤の正面だった。隣にはすとんと綾部自身が腰を下ろす。
「タカ丸さん」
 そっと耳打ちでもするように、彼は言った。
「がんばりましょう。一緒に」
 ―――一緒に。
 それはとても愛しくて、しかし頼もしい言葉だった。
 斉藤は微笑んで、机の下でこっそり手を握ってみた。ぎゅ、と握り返してくれるのが、また愛しい。

「よろしくお願いします」

 *

続きは秋の新刊でお楽しみください。