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君が笑うなら、それで

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それで、良い。



パァンと、耳の奥まで銃声が響く。
日本では珍しい音だ。
それでも裏社会って奴にはちゃんと流通している。
腹は、痛みよりも衝撃のが大きい。

ドクドクと流れる血を見ると、急に力も流れ出るように抜けてきた。
見なきゃよかったな。
弾は貫通したみたいだけど、俺の後ろに居た帝人くんまでは届いてないみたいだ。

帝人くんは小さく口を開け、その目は大きく見開かれている。
そんなに見開いたら、黒い瞳が落ちちゃうんじゃないかと心配になる。

その帝人くんの何処にも怪我は無い。良かった。
俺はいつものようににんまりと帝人くんに微笑むと、そのまま崩れ落ちた。


意識を底に沈めながら思う。こんなところ、帝人くんには見せたくなかった。

俺がやってる世間一般的に言う悪いことや危ないことに、帝人くんを巻き込みたくはなかった。
そう思う時点で、本当は俺は情報屋なんて、失格だったのかも。
だって、こんなにわかりやすい弱点をさらした情報屋なんているもんか。
俺が『折原臨也』である限り、帝人くんが危険に晒される可能性は無いとは言い切れない。
それでも、一緒に居たかったんだ。

大好きだから。

死にたくないね。最後に見たのが帝人くんだったのは、幸いだけど。
もっと、君を幸せにしてあげたかった。
笑わせてあげたかった。



パチッと、目を開けると、そこは病院だった。

あれ?生きてるの、俺。
「ああ、起きた?」
傍らには白衣の友人、新羅が立っていて、俺が昼寝から覚めたくらいのノリでそう言った。
「…帝人くんは?」
「第一声がそれ?まぁいいけどね。…モチロン無事だよ。臨也が撃たれた直後、セルティが乗り込んだから。」
「そう。」

生きてるのならそれも儲けもんだ。
けれど、正直此処に帝人くんが居ないことが切ない。
俺が目覚めると、俺の右手を痛いくらいに握っていた帝人くんが涙目で「臨也さん!」と呼んで、感極まったように俺に抱きつく、そんなの希望なんだけど。

「撃たれた場所が急所じゃなかったからね、綺麗に弾も貫通してたし。」
つらつらと、述べる新羅に興味なさそうに頷きながら、今日は平日だろうか、と考えた。
自分がどれだけ寝てたかわからない、平日なら帝人くんはきっと学校だ。
その帰りにでも病院に寄ってくれるかな?無性に帝人くんに触れたい。

「・・・聞いてる?」
「え?ああ、聞いてないよ。」
どうでもいいじゃないか、自分の怪我の具合なんて。
そんなの自分がよくわかってる。
今の俺は腹の傷よりか『帝人くん欠乏症』で死にそうだ。

「…じゃぁ、今からちゃんと聞いて。」
珍しく、白衣の友人は真剣な声を出した。




「…わかった?」
「全然わかんない。」
俺の本音だった。
新羅の言うことが全くもってわからない。
どうして俺の存在が帝人くんを苦しめると言うの?
俺がこんなに元気だということを帝人くんが知れば、きっと帝人くんだって元気になる。
なんで、俺が帝人くんと会うのはマズイの?

「帝人くんは…臨也が撃たれたのは自分のせいだと思ってる。」
「はぁ?」
「自分を責めてるんだよ。」
俺は訝しげに眉をひそめた。
俺が撃たれたのは間違いなく自業自得と言う奴だ。
帝人くんは巻き込まれたんだから、俺には彼に謝る責任はあれど、どうして彼を責められよう。
「じゃぁその誤解を解けばいいわけ?」
「・・・。」
口を噤んだ友人に俺は苛立たしげに唇を噛んだ。

それから一週間。

帝人くんは一度も病室には来てくれなかった。
俺は驚くほど驚異的なスピードで回復し、松葉杖でどうにかこうにか歩くまでにいたった。
もちろんまだまだリハビリが必要だ。
でも、俺はどうしようもなく帝人くんに会いたかった。

きっと帝人くんは泣いてる。
馬鹿だよ、帝人くんは何も悪くないのに。
俺が怪我したのがそんなにショックだった?
それなら今すぐに情報屋なんて止めてさ、折原臨也も止めてさ、帝人くんと二人きりで誰も知らない所へ行こう。

泣いている帝人くんを慰めたい。

俺はただその一心で病院を抜け出した。

作品名:君が笑うなら、それで 作家名:阿古屋珠