GUNSLINGER BOYⅣ
どうして君を
車の中は終始無言だった。
隣に座る帝人君からは少し寂しげな雰囲気が漂っている。
と、いうのも、ここ最近俺が帝人くんから距離を置くようにしているのでそれに戸惑っているんだろう。
俺は過去の選択・・作戦二課に入って義体の担当官になったことを、後悔している。
帝人君に、出会ってしまったことを。
俺は人間が好きだ。愛してる。
欲望に忠実で、そのくせ綺麗事を好み、理想と現実の間でもがきながら時折予測不能な行動をとる。いくら観察しても理解しきれない愚かで美しくて醜く愛しい人間。
でもその愛してるとは明らかに異なるもっと強くて苦しい感情を、よりにもよって人外に持ってしまった。
この、隣に座っている華奢で童顔でそのくせ俺が唯一大嫌いな人間と同じように暴力的な力を持ったサイボーグ。
担当官を守り公社の敵を抹殺するために蘇生された人形。
そんな彼なのに・・いつの間にか心の大半を占める存在になってしまっていた。
ただの実験だったはずだ。
人間の脳と人工の肉体を持った彼をそばに置いて観察しようと、そう思っただけなのに。
もう、彼無しの日常など考えられないほど帝人君は俺の中に深く入り込んできてしまった。
恥ずかしいことに、この歳になって初恋だ。
特定の相手をこんなに好きになることなどなかった。こんな気持ちになることはなかった。
・・しかし、こんなに不毛なことってない。
どんなに俺が帝人君を愛しても、帝人君が俺を本当の意味で愛することは決して無い。
帝人君は感情も体も人工的に作られた義体だ。
俺のことを命がけで守ってくれるのは俺が帝人君の担当官だから。
好きだと言ってくれるのも、側にいてくれるのも。全部全部、俺が担当官だから。公社の人間だから。
それだけだ。
俺が担当官じゃなかったら、帝人君は俺になんの感情も抱かない。
帝人君の俺に対する感情は、条件付けが見せる幻覚だ。
そんなのは不公平だ。
まやかしの感情に俺ばかり振り回されるなんて御免だ。
帝人君を愛せるかどうかの実験は成功で、失敗だ。
愛したからといってその先には何もない。
所詮は担当官と義体の関係。それ以上でもそれ以下でもない。
苦しいだけだ。
だから俺は帝人君に必要以上に話しかけたり触れたりすることをやめた。
それまで一緒のベッドに寝ていたのを部屋にもう一つベッドを入れてそちらに寝かせることにした。
髪を乾かしてやるのも、何かと抱きしめるのも、失敗した時に慰めてやるのも・・・
それでも帝人君は寂しそうな表情をするだけで、特に何も言わない。
今はまだ戸惑っているようだけれど時期に慣れるだろう。
義体はそういう物だから。
担当官の命令に逆らったりはしない。
あとは、俺が帝人君に触れたい衝動を我慢できるようになればいい。
そのうち慣れる。
割切ればいい。
本当は俺が義体の担当官なんて辞めてしまえばいいんだろう。
そうすれば帝人君の記憶から俺は抹消されて、新しい担当官が・・・・・想像して、無理だと思った。
それは駄目だ。受け付けない。
この子が他の誰かの物になるなんて、許せるわけがない。
本当、滑稽で不毛でどうしようもない。
こんなに苦しいなら、帝人君になんて出会わなければ良かった。
作品名:GUNSLINGER BOYⅣ 作家名:net