GUNSLINGER BOYⅣ
公社からの指示と連絡を聞き終え、また生臭い小屋へ戻ると俺に気がついた帝人君が小走りでこちらへ寄ってくるのが見えた。
義体は聴覚や視覚も若干人間よりも優れている。
足音だけで臨也さんだと分かります。そう無邪気に微笑んでいたあのころにはもう戻れない。
不意に、足元から「あれ・・?」と声がした。
見れば先ほどドタチンに追い返されていた女が一体の死体を訝しげに観察している。
「何か違和感が・・・うーん」
そう呟く通り、その男の死体はよく見れば体制といい服の破れ具合といいどこか違和感がある。
つられて女が死体を動かすのを見ていると・・・
「臨也さんっっ!!!!危ないっっ!!!!」
へ?
と思った瞬間体が強い衝撃を受けて宙を舞い・・同時に耳をつんざくような爆音が響いた。
気がつくと硬い床に大の字で横たわっていた。周囲からは悲鳴や怒号が飛び交っている。
どうやら数秒間意識を失っていたらしい。
鼻にツンとしたキナ臭い火薬の臭いを感じる。何か、爆発したようだ。
意識がはっきりするに従って倒れた際に打ったらしい腰や後頭部に鈍い痛みを感じ出した。
口内には錆びた鉄の味が広がったが激痛が走る箇所は無いし両手両足もついたままのようだ。
「おいっ! 狩沢!臨也! 生きてるかっ!?」
ドタチンが叫んでいるのが聞こえる。痛む頭を無理やり起こせば煙った視界にバラバラになった先ほどの男の死体とその向こうに尻餅をついて額を抑えている女の姿が見えた。
どうやらさっきの死体がトラップだったらしい。
動かすと爆発する仕組みか何かだったのだ。
確か、死体を見ていたら帝人くんに大声で呼ばれて、そしたら・・・・
自分もあの狩沢という女も爆発寸前に帝人くんに思い切り突き飛ばされた、らしい。
もしそうじゃなかったらきっと今頃このバラバラ死体と同じ形状になっていただろう。
そうだ、帝人くん・・・・・
「みかど、くん?」
きょろきょろと辺りを見渡す。
飛び散った破片で怪我をしたらしい一課の捜査員たちが座り込んだりうめいたりしている。
でも、帝人の姿が見当たらないのだ。
爆発の時、確かに自分を突き飛ばしたのは帝人君の手だったはずなのに。
そう思ってよくよく見れば・・・・部屋の隅の木製の椅子の下から、見覚えのある靴とズボンがのぞいていた。
一気に、血の気が引いた。
「っ・・帝人くんっ!!」
半ば這うように近づき、椅子をどける。
爆風を受け、軽い体は吹っ飛ばされて椅子の下に滑り込んだらしい。
服のいたるところが焼けて破けてはいるが大きな損傷は見当たらな・・・いや、左の指が親指を残してきれいに無くなっていた。
二人を突き飛ばした際にまともに爆発を受けてしまったんだろう。
いつもならばすぐに起き上がって俺を守ろうとしてくるのに、なぜか倒れたまま動かない。
義体がこの程度で死ぬはずがないと思いつつも不安で何度も呼びかけた。
「帝人くん・・帝人くんっ!!」
「・・・・・・・う、ん?」
「帝人くん・・・?」
「い・・ざや、さん」
駄目だ・・、
駄目だ、ここで抱きしめたら全部、元の木阿弥だ。
自制心を総動員して広い額に触れるのにとどめ、なるべく冷静な声で言う。
「体の損傷は?」
「いえ・・指、だけ・・・・、っ・・い、臨也さんっ!!血、血がっ!!」
「血・・?ああ、口の中ちょっと切っただけさ。いちいち、騒がないでよ」
「・・すみません・・でも、他に怪我は・・・・はれ?」
「ちょっ」
起き上がりかけてくらりとふらついた帝人君を思わず支えた。
「っ・・すぐに帰って精密検査しよう」
「大丈夫です」
帝人君はいつも通りの笑みを浮かべて俺の手を払った。
心配しないでください。そう言って。
「頭をちょっと強く打ったので・・・ただの、脳震とうです。急がなくても平気ですから、
臨也さんがここで用事を済ませてからでも平気です・・僕、片手でも闘えます。
ちゃんとお仕事できます、臨也さんの役にたてます、だから、」
「平気なわけないだろう!!」
耐えきれずに叫ぶと、帝人君の大きな瞳が更に大きく見開かれた。
周囲がしんと静まり返って注目が集まっているのも気にならなかった。
「体はいくら丈夫でも、頭がやられたら義体だって死ぬんだよ!!この間他の義体が目を
撃たれて死んだじゃないか!!義体の君が脳震とう起こすぐらい強く頭を打ったんだか
ら、もしもどこか傷ついてたりしたらどうするのさ!!闘えるとか、役に立てるとか
そんなの・・・っ!!」
「臨也さ・・・・?」
そんなのどうでもいい、そう叫びかけて我にかえった。
呆然とした様子の帝人君を突き放して立ち上がり、背を向ける。駄目だ、全然・・
「ドタチン、手に包帯巻いといてやってくれる?流石に見た目がグロいから。
あ、止血とかはしなくて大丈夫」
「臨也、お前・・」
「帝人君、手当終わったら車で待ってて。すぐ行くから」
「・・はい、分かりました」
手当て、してやりたい。
抱きしめて、抱き上げて車まで運んでやりたい。
しかしそれをするわけには、いかなかった。
もう、前にも後ろにも進めないんだ。
作品名:GUNSLINGER BOYⅣ 作家名:net