二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

封筒

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
便箋に向かったまま、私は動けずにいました。インクにペン先をつけるけれども、結局役目を果たすことなくインクは拭われます。この作業を、私は何度行ったのでしょうか。
足先を少し動かすと、正座に慣れているはずの私の足が、じん、と微かな痺れを感じました。私はいつから、此処に座っているのでしょうか。

封筒には既に、宛名と送り先を書き留めておきました。切手だって貼ってあります。中身さえ出来上がれば直ぐにでも送り出せるようにと。

けれども、どうしてか、言葉が見つからないのです。

どう書けば彼を傷つけずに済むのでしょう。どんな言葉で私の気持ちを表現すればいいのでしょう。遠い言い回しで、彼に伝わるでしょうか。かといって、直接的な物の言い方は、いくら手紙であっても苦手で。


くうん、小さく飼い犬が声を鳴らしました。ああ、もうそんな時間になりましたか。先程与えたばかりだと思っていましたが、お腹が空いたのでしょう。

私は足を崩して、小さな痺れをやり過ごしたあと、立ち上がりました。
ぱたぱたと嬉しそうに尾を振る犬に餌を与え、立ち上がったのをいいことに、私は外へ出る支度を始めます。


封筒を持って、私は玄関を出ました。



―――――



何日か経って、昼が過ぎて、夕方。夕日の温かさは、私をどこまでも慰めてくれるものでありましたが、淋しくさせるものでもありました。

「ポチくん、ポチくん」
「くうん」

名を呼べば、すぐさま寄ってきてくれる飼い犬、ポチくん。真っ白なふわふわとした毛が、赤のライトに照らされているようでした。

私が縁側に横になると、ポチくんは腹の辺りに丸くなりました。体温が、温かい。

きつく絞めた紐は、苦しくない程度に結び直し、足を少し開いて、胸元を緩めて、ほんの少しだけ開放的になりました。些か、いや、とても寒いのですが、羽織るものを取りに行く気になれません。ポチくんの体温と、沈みかけた太陽。
それらを微かに感じながら、私は静かに目を閉じました。





――、ク
(誰かの声がします)


――キク、
(私の名を呼ぶ声がします)


(…温かい)





ふと、自然に瞼が開いた私が頼れる明かりは、最早月明かりだけになっていました。沈んだ太陽、腹の辺りにいたポチくんは、床に微かな温もりを残したまま、何処かへ消えていました。

(…温か、い?)
作品名:封筒 作家名:SHISUI