Lion Heart
Lion Heart
Prologue
一七七六年アメリカ独立宣言が掲げられ、それから五年後。
アメリカは、自室の窓から窓を眺めながら深くため息をついていた。
イギリスから貰ったスーツは、今では小さくなってしまいモーニングを新調した。
明日は、パリで正式に独立の承認を受けることになる。
自由を手に入れる事をあれほど切望していた自分が、いざ自由を手に入れたのにどうして心の中はこんなにも寂しさが居座り続けるのか…。
独立するために自分から振り解いたイギリスの手の温度が今でも自分の掌に残っている。
イギリスの弟というポジションから抜け出すために、君を守りたいという自分の気持ちを正当化するためにイギリスに背を向けた。
疑いもなく自分に向けられた笑顔が凍りつく日がくるとは、思っていなかった。
「そんな顔をさせたかったワケじゃない…。」
いつから自分とイギリスの道は違ったのか?
いつから自分は、イギリスの後ろを追いかけることはなくなった?
いつからイギリスは、自分の背中を眺めるようになった?
いつから…?
降りしきる雨の中、イギリスから向けられた銃口が真実を告げる。
「自分に、向けられると思ってなかったって?だから、お前は甘いんだよ。」
敵意を向けられているはずなのに、自分の方が痛そうな顔をするイギリスに動けなかった。
そのまま、二人だけ世界から切り取られたような感覚だった。
雨音が周りの雑音を消すように向けられた銃口は、引き金を引かれることなく静かに地面へ降ろされるとイギリスは消え入りそうに言った。
「出来るワケないだろ…。」
降りしきる雨の雫がイギリスの頬を伝いそれに隠れるように涙も混ざっていた。
それが、イギリスとの別れの言葉になった。
『家族ごっこ』だと笑われながらもそれを必死に守ろうとしていたイギリスの思いに背を向けたのは自分だ。
もう、子供ではいられない。
そうして彼の腕を飛び出した。
一人前だと、認めて欲しいと願い続けて手に入れた自由が結果、イギリスを傷つけても自分の気持ちは譲れない。
「戻れないなら進むしかないじゃないか…。」
そう呟くとアメリカは、メガネをかけ玄関へ向かった。
Episode:1
どこからオレは、あいつを見失っていた?
成長の速さにいつか自分の手から離れていく不安に全てに目を閉じたのは自分だ。
このまま朝が来なければいい。
そうすれば、あいつの顔を見ずに済む。
あの雨の日から、何度この願いをかけたか解らない。
あの日から世界は、モノクロになった。
*
コンコン…。
「おい、イギリス。いつまで、そうしているつもりだ?早く出て来い!時間だろ。」
ドア越しからフランスがイギリスを急かす。
「うるせぇ!解ってるからほっとけよ。」
イギリスは、ドアに向かってそう吐き捨てるとシーツを頭の上まで被った。
「・・・。」
イギリスの言葉にドアの向こう側に居るはずのフランスの声が静まった。
(ガキみたいな事をしていることは、解ってる。でも…、だけど…。)
イギリスは、また出口の見えない思考のループに捕らわれては、あの日の事を思い出し視界がぼやけて鼻の奥がツンとしたその瞬間だった。
ガチャ、ガチャ、ガチャリ・・・。
諦めて帰ったと思っていたフランスがドアの鍵を外し部屋へズカズカと入ってきた。
「おい、イギリス!いい加減にしろ。さすがのお兄さんも我慢の限界。」
そう云うと、シーツのお化けのような塊になっているイギリスのシーツを掴むと無理やり剥がした。
「なっ・・・、何すんだテメェ!放っておけよ。それに、なんでこの部屋に入って来れるんだよ!鍵かけてあっただろ!」
イギリスは、顔を真っ赤にしながらフランスを睨むと手近にあるクッションや枕を手当たり次第に投げつけた。
「わっ!っぷ・・・。」
イギリスが投げたクッションを払いのけたが、続けざまに投げられた枕が避けきれずフランスの顔に命中した。
フランスは、クッションや枕を押し除けてイギリスの胸元を掴むとイギリスの視線を捕えた。
「お前な・・・、本当にガキになってんじゃねぇよ。」
いつもふにゃふにゃしているフランスだが、たまに見せる本気にイギリスは、ビクリと肩を震わせた。
「アメリカは、あいつの意思で自立したいと努力したんだ。それをお前は、認めたんだろ。それが嫌なら何であの時、銃を下ろした。」
「・・・。」
(フランスの云う通り、アメリカを手放したのはオレ自身だ。それは、自分が一番、わかっている。)
フランスの言葉に返す言葉が見つからずイギリスは、顔を背けた。
「お前は、自分でアイツを独りの人間(国)として認めたんだろ。だったら、こんな所で引き籠ってないで出て来い。もう、家族ごっこは、終わったんだ。」
フランスは、イギリスへそう言うと掴んでいたイギリスの服を放し部屋を出て行った。
フランスが出て行ったドアを見つめながらイギリスは、ベッドの上で膝を抱えた。
(家族ごっこ・・・。)
フランスの言葉が繰り返し響く。
「分かってるさ・・・。それくらい。」
イギリスは、そう呟くと気だるそうにベッドから抜け出した。
*
アメリカの独立承認の式典は、フランスの家で行う事になっていた。
アメリカとイギリスの独立戦争を見続けた立場からもフランス邸で行う事が一番、最良であり承認するためには第三者の承認を必要としたからだ。
ロココ調の派手な内装に広く明るい廊下が式典を行う部屋まで続いている。
アメリカは、正装した姿でまっすぐに伸びた廊下を颯爽と歩いていた。
「早いな、アメリカ。」
中庭へ続く廊下と交差する付近で柱に凭れかかっていたフランスがアメリカに声をかけた。
「やあ、フランス。そうかい?イギリスは、時間とかにうるさいからね。特にこういう公の式典や会議なら尚更ね。」
アメリカは、そう言うとフランスの居る方へ歩いて行った。
「確かにな・・・。」
フランスは、アメリカの答えに小さく溜息をついて中庭の向こう側に見えるカーテンが締め切られた部屋を見やった。
「なんだい?フランス。」
フランスの視線を辿ってアメリカもその部屋へ視線を向けた。
「いや、なんでもない。ほら、アメリカ。今日は、お前が主役なんだから早く行け。遅れたら格好つかないだろ。」
フランスは、アメリカの質問には答えず先へ行くように促した。
「・・・ん?。ああ・・・。」
フランスに背中を押されたアメリカはそう返事をし、式典が行われる部屋へ歩き始めた。
歩きながらもアメリカは、視線の端にさっきの部屋を捕えていた。
だが、アメリカと同じようにフランスも目が離せないのかその場から動かずに部屋を見守る姿もアメリカの視線に残った。
*
式典が行われる部屋へ辿りつくと、そこは教会の様な高い天井にステンドグラスがはめ込まれており、差し込む光がグラスを通して鮮やかに大理石の床を彩った。
部屋の奥に祭壇の様な机があり、その脇に白い百合の花が飾られていた。
そして、その祭壇を挟む様に椅子が置かれていた。
Prologue
一七七六年アメリカ独立宣言が掲げられ、それから五年後。
アメリカは、自室の窓から窓を眺めながら深くため息をついていた。
イギリスから貰ったスーツは、今では小さくなってしまいモーニングを新調した。
明日は、パリで正式に独立の承認を受けることになる。
自由を手に入れる事をあれほど切望していた自分が、いざ自由を手に入れたのにどうして心の中はこんなにも寂しさが居座り続けるのか…。
独立するために自分から振り解いたイギリスの手の温度が今でも自分の掌に残っている。
イギリスの弟というポジションから抜け出すために、君を守りたいという自分の気持ちを正当化するためにイギリスに背を向けた。
疑いもなく自分に向けられた笑顔が凍りつく日がくるとは、思っていなかった。
「そんな顔をさせたかったワケじゃない…。」
いつから自分とイギリスの道は違ったのか?
いつから自分は、イギリスの後ろを追いかけることはなくなった?
いつからイギリスは、自分の背中を眺めるようになった?
いつから…?
降りしきる雨の中、イギリスから向けられた銃口が真実を告げる。
「自分に、向けられると思ってなかったって?だから、お前は甘いんだよ。」
敵意を向けられているはずなのに、自分の方が痛そうな顔をするイギリスに動けなかった。
そのまま、二人だけ世界から切り取られたような感覚だった。
雨音が周りの雑音を消すように向けられた銃口は、引き金を引かれることなく静かに地面へ降ろされるとイギリスは消え入りそうに言った。
「出来るワケないだろ…。」
降りしきる雨の雫がイギリスの頬を伝いそれに隠れるように涙も混ざっていた。
それが、イギリスとの別れの言葉になった。
『家族ごっこ』だと笑われながらもそれを必死に守ろうとしていたイギリスの思いに背を向けたのは自分だ。
もう、子供ではいられない。
そうして彼の腕を飛び出した。
一人前だと、認めて欲しいと願い続けて手に入れた自由が結果、イギリスを傷つけても自分の気持ちは譲れない。
「戻れないなら進むしかないじゃないか…。」
そう呟くとアメリカは、メガネをかけ玄関へ向かった。
Episode:1
どこからオレは、あいつを見失っていた?
成長の速さにいつか自分の手から離れていく不安に全てに目を閉じたのは自分だ。
このまま朝が来なければいい。
そうすれば、あいつの顔を見ずに済む。
あの雨の日から、何度この願いをかけたか解らない。
あの日から世界は、モノクロになった。
*
コンコン…。
「おい、イギリス。いつまで、そうしているつもりだ?早く出て来い!時間だろ。」
ドア越しからフランスがイギリスを急かす。
「うるせぇ!解ってるからほっとけよ。」
イギリスは、ドアに向かってそう吐き捨てるとシーツを頭の上まで被った。
「・・・。」
イギリスの言葉にドアの向こう側に居るはずのフランスの声が静まった。
(ガキみたいな事をしていることは、解ってる。でも…、だけど…。)
イギリスは、また出口の見えない思考のループに捕らわれては、あの日の事を思い出し視界がぼやけて鼻の奥がツンとしたその瞬間だった。
ガチャ、ガチャ、ガチャリ・・・。
諦めて帰ったと思っていたフランスがドアの鍵を外し部屋へズカズカと入ってきた。
「おい、イギリス!いい加減にしろ。さすがのお兄さんも我慢の限界。」
そう云うと、シーツのお化けのような塊になっているイギリスのシーツを掴むと無理やり剥がした。
「なっ・・・、何すんだテメェ!放っておけよ。それに、なんでこの部屋に入って来れるんだよ!鍵かけてあっただろ!」
イギリスは、顔を真っ赤にしながらフランスを睨むと手近にあるクッションや枕を手当たり次第に投げつけた。
「わっ!っぷ・・・。」
イギリスが投げたクッションを払いのけたが、続けざまに投げられた枕が避けきれずフランスの顔に命中した。
フランスは、クッションや枕を押し除けてイギリスの胸元を掴むとイギリスの視線を捕えた。
「お前な・・・、本当にガキになってんじゃねぇよ。」
いつもふにゃふにゃしているフランスだが、たまに見せる本気にイギリスは、ビクリと肩を震わせた。
「アメリカは、あいつの意思で自立したいと努力したんだ。それをお前は、認めたんだろ。それが嫌なら何であの時、銃を下ろした。」
「・・・。」
(フランスの云う通り、アメリカを手放したのはオレ自身だ。それは、自分が一番、わかっている。)
フランスの言葉に返す言葉が見つからずイギリスは、顔を背けた。
「お前は、自分でアイツを独りの人間(国)として認めたんだろ。だったら、こんな所で引き籠ってないで出て来い。もう、家族ごっこは、終わったんだ。」
フランスは、イギリスへそう言うと掴んでいたイギリスの服を放し部屋を出て行った。
フランスが出て行ったドアを見つめながらイギリスは、ベッドの上で膝を抱えた。
(家族ごっこ・・・。)
フランスの言葉が繰り返し響く。
「分かってるさ・・・。それくらい。」
イギリスは、そう呟くと気だるそうにベッドから抜け出した。
*
アメリカの独立承認の式典は、フランスの家で行う事になっていた。
アメリカとイギリスの独立戦争を見続けた立場からもフランス邸で行う事が一番、最良であり承認するためには第三者の承認を必要としたからだ。
ロココ調の派手な内装に広く明るい廊下が式典を行う部屋まで続いている。
アメリカは、正装した姿でまっすぐに伸びた廊下を颯爽と歩いていた。
「早いな、アメリカ。」
中庭へ続く廊下と交差する付近で柱に凭れかかっていたフランスがアメリカに声をかけた。
「やあ、フランス。そうかい?イギリスは、時間とかにうるさいからね。特にこういう公の式典や会議なら尚更ね。」
アメリカは、そう言うとフランスの居る方へ歩いて行った。
「確かにな・・・。」
フランスは、アメリカの答えに小さく溜息をついて中庭の向こう側に見えるカーテンが締め切られた部屋を見やった。
「なんだい?フランス。」
フランスの視線を辿ってアメリカもその部屋へ視線を向けた。
「いや、なんでもない。ほら、アメリカ。今日は、お前が主役なんだから早く行け。遅れたら格好つかないだろ。」
フランスは、アメリカの質問には答えず先へ行くように促した。
「・・・ん?。ああ・・・。」
フランスに背中を押されたアメリカはそう返事をし、式典が行われる部屋へ歩き始めた。
歩きながらもアメリカは、視線の端にさっきの部屋を捕えていた。
だが、アメリカと同じようにフランスも目が離せないのかその場から動かずに部屋を見守る姿もアメリカの視線に残った。
*
式典が行われる部屋へ辿りつくと、そこは教会の様な高い天井にステンドグラスがはめ込まれており、差し込む光がグラスを通して鮮やかに大理石の床を彩った。
部屋の奥に祭壇の様な机があり、その脇に白い百合の花が飾られていた。
そして、その祭壇を挟む様に椅子が置かれていた。
作品名:Lion Heart 作家名:815