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三木くんのお弁当VS六騎聖

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早朝に生徒会の雑務をこなしながら、ふと、役員でもないのに手伝ってくれている三木の指にべたべたとやけに貼られた絆創膏が目立つのが気になった。
「どないしたん、それ。」
「え?」
「指の。」
書類を差し出す三木の指を指し示す。三木は何やらもごもごと言葉を探してから口籠った。少し頬が赤くなったので、あまり知られたくない事柄なのだろう。重要なことであれば自分が相談されることは疑っていないので、無理に聞き出すつもりはない。しかし適当な嘘をつくことも出来ないのが、三木らしい。
微笑ましくもどうしたものかと挙動不審な三木をうかがっていると、ノックとともに七海が姿を現した。そういえば、弓道部の予算のことで話があると言っていたのを思い出す。今度はどれほど生徒会から毟り取っていくつもりなのか。重い気持ちで七海にようきてくれましたと手を上げれば、にこりと輝かんばかりの笑顔が向けられる。
出馬は七海を優秀な同輩だと思っているが、少しばかり苦手でもあった。特に何でもお見通しと言わんばかりに笑いかけられると、随分と自分を餓鬼くさく感じてしまう。多分そんな風に思う自分すら、七海には見抜かれているに違いない。
仏頂面になるのは流石にみっともなさすぎるので、苦笑で誤魔化し手招きする。三木はいまだもたついていて出馬の些細な表情の変化には気付かなかったが、七海が近付いてくるとはっと顔を上げた。何やら言いたそうに、口を開きかける。しかし、七海と出馬を交互に見てから押し黙った。
七海が生徒会室に足を運ぶことはあまりないので、何か大事な用事だと思って遠慮したのだろう。実際七海には重要なことなのだが、他に時間がとれないわけではないのだ。可愛い後輩を捨て置けはしない。ちらと出雲を見れば、お互いに同意見のようだ。出雲としても嫌な時間が先送りになるのは大歓迎だった。
七海は少し屈み、自分より背の低い後輩の顔をそっと覗きこんだ。端麗な七海の顔が迫ってくるので、三木は動揺しわずかに後ずさる。けれど、笑顔のままの七海に肩を掴まれ動きを阻まれた。女性と言っても、弓道で鍛え上げられた握力や肩は並大抵のものではない。
「三木くん。」
「は、はいっ!」
「何か話があるなら、私も出馬くんも聞くわよ?」
「えっ、でも…!」
「三木くん。」
「うっ、あっ、えと。」
「…三木くん?」
「すみません、言います!本当に言いますから!すみませんんんんん!」
美しい笑顔だというのに、睨まれているような寒気すらして三木は半泣きで謝った。傍から見たら脅迫しとるみたいやわとは、満足そうな七海に対してなど、賢明な出雲は口にはしない。
ようやく七海に解放してもらえた三木がおどおどしながらこちらをうかがうので、眼差しで話を促す。
迷惑にならないか心配していた三木は、どうやら後輩の相談事に乗り気な様子の先輩二人にほっと息をつき、学生鞄から一つの包みを取り出してきた。
「これは?」
それを書類の並ぶ机の上に置き、三木は包みを開く。現れたのは、見紛うことなき弁当箱だった。
「その、実は、この弁当の中身は僕が自分でつくったんです。」
「あら、偉いじゃない。三木くんのお母さん大助かりね。」
「へえ、器用やなあ、久也。…うん?ってえことはや、その指の怪我は…。」
感心しながらも、二人は絆創膏の面積のほうが広い手の経緯を推し量る。そしてそれは想像通りのようだ。三木が気恥ずかしげに首を縮める。
「はい。お恥ずかしい限りですが、調理していたらこうなって。」
しかし、それだけでは出馬相手に口籠った理由にはならない。確かに三木は負けず嫌いな性分だが、慣れない作業に手間取るのは当然で、それを失態だと隠すには素直さが勝ちすぎる。
「でも、どうして急に?」
「そ、それは、その。」
七海の問いに、三木の頬の赤みが増した。心なしか、眼も潤んでいるような気がする。
「一緒に昼食をとりたい相手がいるんですが、何時も断られてしまって…。相手は購買のパンばかり食べているので、彼のぶんまでつくって行けば一緒にたべてくれるかな、と。」
恋する乙女か、と茶化す者はいない。容易く思い浮かぶ相手の姿に、二人は生温い気分になる。同性の同級生に弁当をつくるという行為が恥ずかしいことだと一応認識しているだけでも、御の字だ。
(名前を伏せてもバレバレよ、三木くん…。)
(久也はほんまにわっかりやすいなあ…。)
三木に対してドン引きしても誰も二人を責められない状態であったが、そこは上級生らしい包容力でしようがない子と片付けた。ツッコミ要員が足りない弊害である。
「それで、練習代わりに自分のをつくってきたってわけや。」
「はい、七海先輩にアドバイスして欲しくて。」
「私に?」
「はい。以前に七海先輩がつくって来てくれたお菓子すごくおいしかったので、料理上手なんだろうなと思ったんです。」
なるほどそれなら、出馬ではなく七海相手に先に話そうとしたのもわかる。
「そんなに大層な腕前ではないんだけどね。でも、うん、かまわないわよ。私に出来ることなら、付き合いましょう。」
「僕も、味見くらいならするで。」
「ありがとうございます!」
七海に言いたいことが言えてすっきりしたのか、嬉しそうに弁当の蓋を開ける。懐いてくる子犬のような後輩のテンションに微笑んでいた二人は、眼の前に姿を見せた物体に笑顔を固まらせた。
(くっろ!なんか全体的に炭っぽいっていうか、くっろ!)
(どれがどんな料理か、見た目では判別つかないわね…。)
はたして、自分たちの知っている弁当とこれは同じものなのか。焦げたなにかが詰まっているようにしか見えない。
しかし、その物体Xの製作者はじっと二人を見つめてくる。
(くっ!)
(ごっつい期待の眼で見て来よる…!)
これは食べ物の見た目じゃないと、心を鬼にして言うべきなのだろう。三木は上達を望んでいるし、何よりも自分たちの胃の為に。けれど、もしかしたらこんな見た目でも味は良いのかもしれない。見た目に関しては一旦保留にし、勇気を出して黒い何かを摘む。
一度深呼吸して、ええいままよと口に放り込んだ。その瞬間、吐き出すこともなく奇声も上げなかった二人の自制心は並ではない。
(どうしてこんなに焦げてるのに生っぽいの…?!)
(なんか、じゃりじゃりいうで、これ…。砂食うてるみたいや。)
「ど、どうですか?」
「「……。」」
飲み込めずに口の中で行き場を探す物体Xと格闘するのに必死で、三木の問いに上手く頭が追いつかない。
「おいしくないですか…?」
無言の二人の姿に、三木は悲しげに肩を落とした。しょんぼりと小さい身体をさらに小さくさせ、絆創膏だらけの手を弄るものだから、どうにも自分たちが悪役になったような気持ちになる。泣き出すのではないかとはらはらしながら、そこでようやく七海が動いた。出馬は、その姿を頼もしく思いながらも不安を隠せずに見送る。
(この局面をどう乗り切るきや、静御前!)
七海は顔色の悪さを笑顔で誤魔化し、ウインクしながら三木の頭をあやす様に撫でた。
「…大丈夫。」
「七海先輩…。」
「ちょっと個性的な味だけど、もっと練習すればきっとすごくおいしくなるわ。お姉さんが保証します。」
作品名:三木くんのお弁当VS六騎聖 作家名:六花