つめたい手に愛されて。
1.戦場
硝煙と血潮の匂いが立ち込める、薄曇りの冷たい土地。
大地には血だまりと壊れた武器、そして最早もの言わぬ肉塊の人形とかしたニンゲン達。
荒れ果てた戦場には、草木一本も生えてはおらず、残ったのは見渡す限り何もない閑散とした場所だけ。
戦の終わりを告げる笛が血に塗れた冬の戦場に響きわたる。
空には漆黒の鳥が死者を迎えるように駆け、踊る。
色々な人々が入り乱れながらも、静寂を保った戦場。
特に静かな沈黙を保ったところに戦の勝者の国が、敗者である国を囲い、見守っている。
ドイツ、イタリア、日本、三国とも傷だらけだった。
真ん中に三国は集まり、勝者の出す条件を待っている。
これから言われる言葉には絶対服従。それが敗者と勝者の掟。
ロシアが俺、ドイツの一部であるプロイセンに持ち掛けた一つの条件。俺ににロシアが内密に教えた、これからの事について。
俺はたった一人の弟のドイツを守る為に一つの決意をした。
ロシアに連れられて、俺は三国のところにあるいていく。
勝者の見守る中、嫌われ者のプロイセンがドイツの胸ぐらを掴みあげる。
「お前の半分(東)をよこせ。」
ドイツが俺を睨むのも気になどならなかった。
無視されるのも、怨まれ蔑まれるのも慣れていたから。
守る為なら手段など選ばない。
どんなに卑劣な手段だろうと、手が赫色に染まろうと助ける。
我が国を、主君を、家族を、民を守る為ならば穢れもおそれぬ。
それがプロイセンだ。
「大丈夫。お前は俺が守ってやる。」
耳もとに唇を近づけ、囁く。
怒りを滲ませていた翡翠色の瞳が驚きに見開かれていく。上手く笑えるか分からなかったけど、にっとわらった。
「俺はお前の兄貴だぞ?」
安心しろと大丈夫だと出来るだけ伝える為に。
「…分かった。」
掠れた声で告げられた言葉を聞いて、ロシアが歩いてくる。
片手に血だらけの蛇口のついた鉄パイプを持ち、無気味な程普段通りの笑いを浮かべながら。
胸ぐらを掴んでいた手をはなして、俺もまた不敵な笑みを浮かべる。
「…これで、東は俺のものだ。」
確かめる様に紡いだ言葉。
笑みを微塵も崩す事も無く歩を進めるロシアを睨みながら、プロイセンは仲間を自分の背に隠すようにロシアに向かって歩き出した。
「ドイツに要求しようかな。東ドイツ…いや、プロイセンをちょうだい。」
ドイツの瞳が驚きに見開かれる。断る事など許されない、勝者の言葉。
犠牲になるのは、さっき東ドイツを渡した兄のプロイセンだけだ。
気付いてしまった、助けるという本当の意味に。
緋い瞳に宿した決意に。
「にいさん!!まっ…」
駆け寄ろうとすると、ロシア以外の諸国に羽交い締めにされる。
それでも、暴れ回るドイツにロシアは笑いかけた。
俺に向かってに鉄パイプを振り上げた。
俺を見下しながら、容赦無く血で濡れた鉄パイプを振り下ろす。
ゴンと鈍い音が響き、鈍痛が頭を揺らす。
視界が揺らぎ、立っている事すら出来ない。
耐えきれなくなり倒れる様に地に膝をつくと、鉄の匂いがした。 鉄パイプの匂いなのか流れ出す血潮の匂いなのか、それとも大地の匂いなのか判らなかった。
銀の髪がみるみる赫色に染まっていくのが見える。血が白い肌を伝い、戦争で充分に血を吸った大地に紅い跡をつけた。
「にいさ…兄貴…!!」
「これ以上暴れると僕、殺し
ちゃうかもしれないよ?」
悲鳴に近い叫び声が聴こえる。
非道なロシアの言葉や笑い声も。
無様に跪き、血を流すプロイセンの顎を鉄パイプで軽く上げさせてロシアは呟いた。
いつも通りの、笑みを浮かべながら。
暴れるのをやめたドイツは兵に引きずられていく。
悔しそうに顔を歪め、唇を歪めるドイツが見えた。
左目は戦場で受けた傷で今は開けられないから右目だけで見たのに判る程だった。
「ドイツと同じ様に暴れられると困るから、拘束しなくちゃね。」
無理矢理立ち上がらせられ、後ろ手に手錠が掛けられる音が耳に響く。
二人のロシア兵が、銃を突きつけていつでも打てる様に臨戦態勢に入る。
「さぁ、行こう。」
ロシアに連れられて行くときに、ふっとドイツの顔が見たくなった。
心配だったからかもしれない。
見ると予想通り、泣きそうな辛そうな面構えだった。
だから、笑いかけた
笑えと、笑っていて欲しかったから。
でも、返ってきた笑みは泣きそうな笑みだった。
「…行くよ。」
ロシアの言葉でドイツから前方に視界を戻す。
ロシアは、二人のロシア兵に少し下がってついて来いとと命令を下した。
銃の射程範囲内ギリギリで銃口は必ず俺に向けられている。
「…本当にあいつには手を出さないんだな?」
小声で呟いたことばを聞いて、ロシアは笑った。
嘲笑うかのように、低く長く、くつくつと。肩をゆらめかせながら振り向き、にっこりと。
「君次第だよ。」
紡ぎ出された言葉。
臨むところだ。
唇では表さず心で呟いた言葉。
決意だった。
戦場から一台の車が走り去っていった。
プロイセンの黒い鷹の旗とロシアの紅と蒼と白の旗を掲げて。
車に揺られながら、プロイセンを僕は見つめる。
ガタゴトと道の悪いところを走っているのか揺れが激しい。
プロイセンは僕を見ないで外を見ている。
ケガの治療をしたいのに、未だに警戒心が解けないばかりか増していく。
「手当てしてもらいなよ。」
「命令じゃ無いのなら、従わない。」
敵には恩を受けない、という様な口調にイラっときた。
気高きプロイセンを落とすのは骨がいりそうです。(コル☆)
だからこそ、落しがいがある。
孤高の黒き鷲と讃えられる程に恐れられた国。
それがプロイセン。
くっきりとしている輪郭に燃えるような緋色の瞳は程良く潤んで見える、琥珀とも銀ともいえる輝く髪、唇と目元には朱に染まっていて艶やかな印象を見る者に与え、肌はきめ細かく白く太陽の光を浴びるとハチミツ色にほんのりと染まる。
そんな美貌を備えながらも、戦場に出れば血に塗れることも、穢れ傷付く事も厭わず、国王の為に躊躇ない銃を抜く。
しなやかな四肢に細い腰、見かけによらず軽い体、戦場を馬を使わずにでも駆け抜ける強靭で俊敏に反応する肉体。
気高く屈さない精神。
不気味な程の力量と鷲の様に聡い知性を兼ね備えながらも、王が示せば従順に頭を下げ忠誠を捧げ、味方につけば心強い事この上ないが敵につけば恐ろしい。
ドイツができてプロイセンは、必要なくなった。
空っぽの存在として生き続けていたなんて思わなかったけど。
「ギルベルトくん。」
「…!!何故、其の名を…。」
「"知っているのか?"かい?」
君を墜落(お)とすことが出来て嬉しいよ。
君をじっくり追い詰め汚すことが出来て…ね?
驚きに揺れる瞳が、僕を見つめる。ギルベルト…彼、プロイセンが親しい者や国王にだけ教えた名前。
他の国も持っている、愛称みたいなものだ。
大切な者にしか呼ばせない、名前。
「教えてなんかあげない。これからこの名前で呼ぶからね。ギルベルト。」
「なっ……やめろ!!」
怒りと憤りに唇を震わせ、叫ぶ。
形の良い唇を怒りに歪ませ、冷たいいかり緋色の瞳に冷たい怒りを僕を睨む。
やっと、僕のことを本気で見てくれた。
憤りに白い頬が紅に染め上がっていく、噛んだ唇からは僅かな血が滴る。
硝煙と血潮の匂いが立ち込める、薄曇りの冷たい土地。
大地には血だまりと壊れた武器、そして最早もの言わぬ肉塊の人形とかしたニンゲン達。
荒れ果てた戦場には、草木一本も生えてはおらず、残ったのは見渡す限り何もない閑散とした場所だけ。
戦の終わりを告げる笛が血に塗れた冬の戦場に響きわたる。
空には漆黒の鳥が死者を迎えるように駆け、踊る。
色々な人々が入り乱れながらも、静寂を保った戦場。
特に静かな沈黙を保ったところに戦の勝者の国が、敗者である国を囲い、見守っている。
ドイツ、イタリア、日本、三国とも傷だらけだった。
真ん中に三国は集まり、勝者の出す条件を待っている。
これから言われる言葉には絶対服従。それが敗者と勝者の掟。
ロシアが俺、ドイツの一部であるプロイセンに持ち掛けた一つの条件。俺ににロシアが内密に教えた、これからの事について。
俺はたった一人の弟のドイツを守る為に一つの決意をした。
ロシアに連れられて、俺は三国のところにあるいていく。
勝者の見守る中、嫌われ者のプロイセンがドイツの胸ぐらを掴みあげる。
「お前の半分(東)をよこせ。」
ドイツが俺を睨むのも気になどならなかった。
無視されるのも、怨まれ蔑まれるのも慣れていたから。
守る為なら手段など選ばない。
どんなに卑劣な手段だろうと、手が赫色に染まろうと助ける。
我が国を、主君を、家族を、民を守る為ならば穢れもおそれぬ。
それがプロイセンだ。
「大丈夫。お前は俺が守ってやる。」
耳もとに唇を近づけ、囁く。
怒りを滲ませていた翡翠色の瞳が驚きに見開かれていく。上手く笑えるか分からなかったけど、にっとわらった。
「俺はお前の兄貴だぞ?」
安心しろと大丈夫だと出来るだけ伝える為に。
「…分かった。」
掠れた声で告げられた言葉を聞いて、ロシアが歩いてくる。
片手に血だらけの蛇口のついた鉄パイプを持ち、無気味な程普段通りの笑いを浮かべながら。
胸ぐらを掴んでいた手をはなして、俺もまた不敵な笑みを浮かべる。
「…これで、東は俺のものだ。」
確かめる様に紡いだ言葉。
笑みを微塵も崩す事も無く歩を進めるロシアを睨みながら、プロイセンは仲間を自分の背に隠すようにロシアに向かって歩き出した。
「ドイツに要求しようかな。東ドイツ…いや、プロイセンをちょうだい。」
ドイツの瞳が驚きに見開かれる。断る事など許されない、勝者の言葉。
犠牲になるのは、さっき東ドイツを渡した兄のプロイセンだけだ。
気付いてしまった、助けるという本当の意味に。
緋い瞳に宿した決意に。
「にいさん!!まっ…」
駆け寄ろうとすると、ロシア以外の諸国に羽交い締めにされる。
それでも、暴れ回るドイツにロシアは笑いかけた。
俺に向かってに鉄パイプを振り上げた。
俺を見下しながら、容赦無く血で濡れた鉄パイプを振り下ろす。
ゴンと鈍い音が響き、鈍痛が頭を揺らす。
視界が揺らぎ、立っている事すら出来ない。
耐えきれなくなり倒れる様に地に膝をつくと、鉄の匂いがした。 鉄パイプの匂いなのか流れ出す血潮の匂いなのか、それとも大地の匂いなのか判らなかった。
銀の髪がみるみる赫色に染まっていくのが見える。血が白い肌を伝い、戦争で充分に血を吸った大地に紅い跡をつけた。
「にいさ…兄貴…!!」
「これ以上暴れると僕、殺し
ちゃうかもしれないよ?」
悲鳴に近い叫び声が聴こえる。
非道なロシアの言葉や笑い声も。
無様に跪き、血を流すプロイセンの顎を鉄パイプで軽く上げさせてロシアは呟いた。
いつも通りの、笑みを浮かべながら。
暴れるのをやめたドイツは兵に引きずられていく。
悔しそうに顔を歪め、唇を歪めるドイツが見えた。
左目は戦場で受けた傷で今は開けられないから右目だけで見たのに判る程だった。
「ドイツと同じ様に暴れられると困るから、拘束しなくちゃね。」
無理矢理立ち上がらせられ、後ろ手に手錠が掛けられる音が耳に響く。
二人のロシア兵が、銃を突きつけていつでも打てる様に臨戦態勢に入る。
「さぁ、行こう。」
ロシアに連れられて行くときに、ふっとドイツの顔が見たくなった。
心配だったからかもしれない。
見ると予想通り、泣きそうな辛そうな面構えだった。
だから、笑いかけた
笑えと、笑っていて欲しかったから。
でも、返ってきた笑みは泣きそうな笑みだった。
「…行くよ。」
ロシアの言葉でドイツから前方に視界を戻す。
ロシアは、二人のロシア兵に少し下がってついて来いとと命令を下した。
銃の射程範囲内ギリギリで銃口は必ず俺に向けられている。
「…本当にあいつには手を出さないんだな?」
小声で呟いたことばを聞いて、ロシアは笑った。
嘲笑うかのように、低く長く、くつくつと。肩をゆらめかせながら振り向き、にっこりと。
「君次第だよ。」
紡ぎ出された言葉。
臨むところだ。
唇では表さず心で呟いた言葉。
決意だった。
戦場から一台の車が走り去っていった。
プロイセンの黒い鷹の旗とロシアの紅と蒼と白の旗を掲げて。
車に揺られながら、プロイセンを僕は見つめる。
ガタゴトと道の悪いところを走っているのか揺れが激しい。
プロイセンは僕を見ないで外を見ている。
ケガの治療をしたいのに、未だに警戒心が解けないばかりか増していく。
「手当てしてもらいなよ。」
「命令じゃ無いのなら、従わない。」
敵には恩を受けない、という様な口調にイラっときた。
気高きプロイセンを落とすのは骨がいりそうです。(コル☆)
だからこそ、落しがいがある。
孤高の黒き鷲と讃えられる程に恐れられた国。
それがプロイセン。
くっきりとしている輪郭に燃えるような緋色の瞳は程良く潤んで見える、琥珀とも銀ともいえる輝く髪、唇と目元には朱に染まっていて艶やかな印象を見る者に与え、肌はきめ細かく白く太陽の光を浴びるとハチミツ色にほんのりと染まる。
そんな美貌を備えながらも、戦場に出れば血に塗れることも、穢れ傷付く事も厭わず、国王の為に躊躇ない銃を抜く。
しなやかな四肢に細い腰、見かけによらず軽い体、戦場を馬を使わずにでも駆け抜ける強靭で俊敏に反応する肉体。
気高く屈さない精神。
不気味な程の力量と鷲の様に聡い知性を兼ね備えながらも、王が示せば従順に頭を下げ忠誠を捧げ、味方につけば心強い事この上ないが敵につけば恐ろしい。
ドイツができてプロイセンは、必要なくなった。
空っぽの存在として生き続けていたなんて思わなかったけど。
「ギルベルトくん。」
「…!!何故、其の名を…。」
「"知っているのか?"かい?」
君を墜落(お)とすことが出来て嬉しいよ。
君をじっくり追い詰め汚すことが出来て…ね?
驚きに揺れる瞳が、僕を見つめる。ギルベルト…彼、プロイセンが親しい者や国王にだけ教えた名前。
他の国も持っている、愛称みたいなものだ。
大切な者にしか呼ばせない、名前。
「教えてなんかあげない。これからこの名前で呼ぶからね。ギルベルト。」
「なっ……やめろ!!」
怒りと憤りに唇を震わせ、叫ぶ。
形の良い唇を怒りに歪ませ、冷たいいかり緋色の瞳に冷たい怒りを僕を睨む。
やっと、僕のことを本気で見てくれた。
憤りに白い頬が紅に染め上がっていく、噛んだ唇からは僅かな血が滴る。
作品名:つめたい手に愛されて。 作家名:やしろかなえ