これも一つのシズデレラ
舞踏会の翌日、帝人王子は国中に御触れを出しシズデレラを探す・・・こともなくまっすぐに平和島の家までやってきました。無理矢理についてきた正臣と杏里は帝人王子にどうしてもと言われて馬車の中から見守っています。
「こんにちは」
「帝人君っ、帝人君の方から俺に会いに来てくれるなんて嬉しい!!!」
帝人王子の姿を目にした臨也はすぐ抱きつこうとしましたが、静雄につかまれて家の中に放り投げられました。ちなみに今日はどちらともちゃんと男性用の服を着ています。
「お前なんでここがわかったんだ?」
「シズデレラさんのこと何か知らないかセルティさんに聞いてみたら、この家の場所を教えくれたんです。お知り合いだったんですね」
城からの馬車が来たことに何事かと集まってきた近所の住民たちは凍りつきました。静雄はその名前で呼ばれるのが大嫌いなのです。いくら王子とはいえぶん殴られるのでは、あんな小さな身体で静雄の拳をまともに受けたら命を落とすのではないか、と心配する者もいれば、すでに諦めて王子の冥福を祈る者までいます。
しかし野次馬たちの予想に反して静雄は怒りだす気配がありません。それどころかほのかに頬が赤くなっているようにも見えます。
当の静雄ですらシズデレラと呼ばれて怒りがわかない自分に驚いていました。
「ああ・・・。べ、別にお前にならそう呼ばれてもいいんだけどよ、俺には静雄っていうちゃんとした名前があってだな・・・」
「そうなんですか!? 失礼しました、静雄さん」
静雄さん、そう名前を呼ばれたとたん静雄の心臓が激しく鼓動を打ち始め、顔もさらに熱くなっていきました。
(なんだ!? 俺の身体は一体どうなってんだ!!?)
「静雄さん、今日はあなたに用があって・・・」
「あっ、ああっ、昨日のことならちゃんと壊した分弁償するから・・・っ」
昨晩はあのまま逃げたものの、さすがに城の物を壊してしまったことは反省しており本当は自ら出頭するつもりでした、臨也をこの世から葬った後に。もしかしたらまた帝人王子に会えるのではないか、と密かに少し期待もしていました。
まあ静雄が破壊した物の合計金額を考えると決して弁償できる額ではないのですが、それは置いといて。
「いいんですよ、それは。あんなお飾りただのガラクタですから」
「そうなのか?」
「はい」
帝人王子にとっては興味のないものなど何の価値もないようです。笑顔で言い切る帝人王子に静雄はほっとしました。
「じゃあ用っていうのは?」
「用・・・、とうかお願いなんですけど・・・」
すると帝人王子は静雄の手を取って顔をじっと見つめました。紅潮された頬、わずかに潤んだ瞳で見上げられて静雄には堪ったものではありません。
「昨日からずっと静雄さんのことが忘れられなくて・・・。あんなにドキドキしたの、きっと生まれて初めてです、一目惚れなんです! だから・・・」
帝人王子の言葉に周りの野次馬たちもどよめきました。正臣は馬車から下りて帝人王子止めようとしますがそんな正臣を杏里が止めます。
(そんな、まさか、プロポーズか・・・? まさか、いやだって俺ら男同士だし、いやでもこいつ相手ならありか・・・、ってその場合は俺が嫁なのか!? それじゃあ俺の方が掘られ・・・、冗談じゃねえぞむしろ俺の方がこいつを掘・・・って何考えてんだ俺はああああ!!!!!)
そんな静雄の胸中など知ることもなく帝人は続けました。
「だから、静雄さん、僕の・・・」
(お前の・・・?)
「僕の師匠になってくれませんか?」
杏里以外のその場にいた者全員が、帝人王子が今言ったことを理解するのに数秒かかりました。そして理解したあとに思うのは疑問です。
「僕、静雄さんのそばならもっと素敵な非日常に出会えると思うんですよね!!!」
なおも続けられる帝人王子の言葉に静雄の心は崩れました。まさに静雄のライフポイントはもう0です。
そんなところに復活した臨也が静雄と帝人王子の間に割って入ってきたのです。
「ちょっと待ったああああ!!! 帝人君何考えてんの!? こんな脳みそまで筋肉の暴力バカな化け物のそばにいるって正気じゃないよ!!!」
「そんなこと言わずにお義母さんからも静雄さんにお願いしてくれませんか?」
なぜ帝人王子が臨也が静雄の書類上の継母だと知っているのか。それもセルティから知らされていたからです。ですがそんなこと疑問に思うこともなく、臨也の頭の中では『お義母さん』という言葉が響いていました。
『やめてくださいお義母さん! 僕には静雄さんが・・・!』
『そんなこと言って、ここはこんなに悦んでるよ? 前からこうされたかったんじゃないの?』
『ちがっ・・・!』
『ほら、素直になりなよ。そしたらもっと気持ちよくしてあげるからさ・・・』
『ああ・・・だめぇ・・・』
そして以下R18的な妄想も駆けめぐったわけで。
「悪くない、悪くないよ! よしシズちゃん、帝人君と結婚してもいいよ。そしたらすぐに寝取ってあげるから!!!」
「なに言ってやがんだてめえはああ!!!」
臨也の存在を消しさるべく、また今の言葉にできないこの感情を発散させるべく、静雄は近くにあった郵便受けを引き抜き、臨也に向かって振りかざしました。
◇◆◇◆◇
戦争を始めた静雄と臨也を見て野次馬たちは散り散りに逃げて行きます。だというのにこの戦争の原因である帝人王子はある程度距離を置いた場所から「すごいすごい!」と目をキラキラさせて二人に魅入っています。
そんな光景、そして親友を見て、普段無駄なくらいおしゃべりな正臣は出す言葉がありませんでした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「よかったですね、帝人君、すごく楽しそうです」
「よかったのか!!?」
なにはともあれ、帝人王子が幸せそうなのでめでたしめでたしということで。
作品名:これも一つのシズデレラ 作家名:千華