これも一つのシズデレラ
「ああっ、やっぱり俺たちが出会うのは運命だったんだね! 帝人君、俺は君に会うためにここに来たんだよ」
「いやいやいやいや、それって今の話聞いた感じからすると絶対裏ありますよね!? それにさっき今更どうでもいいって言いませんでした!!?」
「そんな小さなこと気にする帝人君も、好きだよ」
「だから離れろって言ってんだろうがああああ!!!!!」
すぐ横に壁に掛けてあった絵画を静雄は額縁ごと投げつけましたが、臨也は凄まじいスピードで迫るそれを軽くかわすと帝人王子の腕をとって走りだします。
「もうほんっと気が利かないよね、シズデレラは!」
「だからその名前で呼ぶんじゃねえ!!!」
命がけの追いかけっこが始まりました。
静雄は甲冑、花瓶、それを置いていた台など廊下に飾られている様々なものを、臨也からはどこに隠し持っていたのか研ぎ澄まされたナイフを相手の急所を狙って投げつけます。
そしてそれを一番近くで見ていた第三者(ある意味当事者に含まれるかもしれませんが)である帝人王子は恐怖とは別の感情を抱きました。
(すごいすごいすごいっ、あんな重い物を持ち上げて投げるような人初めて見た!!!)
初めて見る光景に興奮を隠しきれず、目を輝かせて後ろから追いかけてくる静雄を見ます。
しかし人並にも体力がなく運動も苦手な彼は次第に臨也の走るペースについていけなくなってしまいました。ついには階段を上る途中で立ち止まってしまい、勢いそのままに走っていた臨也は手を離してしまいます。
「あっ!」
「危ねえっ!」
(・・・え?)
よろめいて階段を踏み外し転がり落ちそうになった帝人王子を見た静雄は、慌ててそちらに駆けて間一髪のところで帝人王子の身体を受け止めました。
「っつ・・・!」
「おい大丈夫か!?」
ぎゅっと目をつぶった帝人王子の顔を覗き込んでいると、彼は徐々にまぶたを持ち上げ、至近距離で静雄と目が合います。
するとどうでしょう、静雄の身体にも、臨也のときと同じ衝撃が走ったのです。
(なっ、なんだこれ、急に心臓がバクバクいって・・・!?こいつはなんでそんなに俺の顔見てるんだっ、顔になんかついてるのか!? くそっ、なんかわからねえが顔がそらせねえぞ・・・っ)
一方帝人王子の方は、
(うわあ、遠目から見てもそう思ってたけど、やっぱ近くて見てもイケメンだなあ)
と冷静に静雄の顔の観察をしていました。しばらく見つめ合っていた二人ですが、それを見ていた臨也が止めないはずがありません。
「ちょっ、なんなの二人とも!? そこ見つめ合うの禁止!!!」
しかし天敵である臨也の声も聞こえないのか静雄は目をそらそうとはしません。帝人王子もなんとなく目をそらしたら失礼かなと思いそらしません。するとそこに親友兼幼馴染の声が聞こえてきました。
「帝人おおお!!!」
「正臣!?」
「すごい音こっちから聞こえたけどなんかあったのかってなんだその状況!!?」
正臣が目にしたのは、親友がドレスを着た男二人に挟まれ、片方には抱きしめられ、もう片方はその男にナイフを突きつけるという何とも修羅場らしい光景だったのですが・・・、まあ実際修羅場なんですけど。
「っち、また邪魔が入ったか。帝人君、心苦しいけど今夜のところはこれでお別れだ。大丈夫、そんなに寂しがらなくても絶対に会いに来るから。今度は君を攫いにね!」
「ああん?」
「あ、シズちゃんはさっさと帝人君から離れてね。ここにいたら捕まっちゃうだろうけどそれは止めないよ、どうせなら器物破損とセクハラで死刑にでもなってくれればいいし。でもとにかく帝人君から離れて、というかそれ以上触らないで汚れるから」
「待てこのクソ臨也ぁ!!!」
「ま、待って下さい!」
帝人王子に呼び止められて揃って止まって振り返りますが、さらに後ろから迫ってくる正臣が呼んだ衛兵たちを見て、静雄と臨也はとにかくここは逃げることにします。帝人王子を置いて行くことは二人にとってとてもとてもとても辛いことですが、こんなところで捕まるわけにはいきません。
「帝人っ、本当に一体何が・・・」
「かっこよかったなあ」
「・・・・・・・・・え?」
駆けよってきた正臣を完全に無視した帝人王子がぼうっとしながらつぶやくのと同時に、0時を告げる鐘が城中に響き渡りました。
◇◆◇◆◇
作品名:これも一つのシズデレラ 作家名:千華