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多様性恋愛嗜好 おまけ

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 可愛い恋人、を強調して言うと普段の爽やかな笑顔からは想像も付かないようなしかめっ面をされた。ハルヒにはとてもじゃないが見せられないな。
「それはそれはありがとうございます。しかし、僕はいわゆる恋人らしい行為をあなたに強要したい訳ではありません。……いえ、今まであなたの意志を無視してきた僕に言えることではないでしょう。ですが、あなたと恋仲になったからこそ、なおさらにあなたに僕の恋人像を押し付けたくはないのです。恋人であるというなら、お互いに立ち位置は対等でなければならない。僕は僕に都合の良い人形が欲しいわけではないのですから」
 ですから、あなたが無理に僕の望みを叶える必要はないのです。そう締めくくる古泉の表情はもういつも通り、柔和な微笑みくんに戻っていた。
 なんっかなぁ。お互いの思いが通じ、さあ二人は恋人同士になりました。その二人が次の日の朝にする会話がこれか? ロマンを語るならお前ももう少し情緒を学べ。
「俺がいつ、無理をしたと言った」
 むしろ結構楽しかったぞと不敵に笑ってみせると困惑したように古泉は眉を下げた。納得いかんならもう一回やってやろうとトマトを持ち上げたが、こちらの動きを察したのか「いえ、結構です」と慌てて首を振ってきた。目敏い奴だ。
「……今までの言動から鑑みるに、無理なのはお前の方なんじゃないのか」
 だって、そうだろ? トマト食わせた一連の動作から今までの間、古泉は嫌そうな顔をするか俺の行動に対して否定的な言動するか、そのどちらかしかしていない。まさかトマトが嫌いで……なんて訳はないだろう。飯用意したのこいつだし。今まで仕掛けてきたのはこいつだというのに恋人同士になったら手のひら返しやがって。
「そんな、まさか!」
 だが、大慌てで古泉は否定してきた。ならどういうつもりなのかきっちり説明してもらいたい。
「説明しろ、と言われましてもね。……そうですね、簡潔に申し上げますと、あなたとこんな関係になるのは想定外もいいところなのですよ。機関のことを抜きにしてもあなたが好きなのは涼宮さんか、そうでなければまだ誰にも恋心を抱いていないか、どちらかだと予想していました。いえ、確信していたと言ってもいい。それがあなたの中でどのような変心があったのかは存知ませんが男である僕の告白にふらっとなびいてくださって。ええ、とてもありがたいことです。ですが、僕の中でそれを受け入れきれていないのです。あげく、僕の言葉を受けて『はい、あーん』? 僕の認識していたあなたのキャラクターに合わないことばかりです。正直、僕は混乱しています。あなたの顔をした未知の生物と対話でもしているかのようですよ」
 それのどこが簡潔なんだ。相変わらず台詞が長い。が、言いたいことはわかった。急な変化に弱いんだな、こいつは。押してばっかのところを押し返されて、今度は脱兎のごとく引きに引いていると。極端から極端に走られるとこっちだって混乱するのだが。
「なら、解決方法はひとつだな」
「おや……もう思い浮かびましたか」
 さすがですねと嫌味ったらしく拍手までしてくれた。拝聴しましょうと次の言葉を促してくるので簡潔に言ってやった。
「慣らす」
「…………は?」
 意味がわからないと呆気に取られた声をあげた。古泉を反面教師にして簡潔にしすぎたかもしれん。
「お前の中の俺と今の俺との間に齟齬があるってんならその差が埋まるまできっちり付き合ってやるよ。これからお前が付き合っていくのは今の俺なんだからな」
 押されるのに慣れない、引いてしまうというなら話は簡単だ。押されるのに慣れさせ、引こうにも引けない状況を作ってやればいい。そもそも俺をこっち側に引き込んだのはこいつなのだ。今更逃げようったってそうはいかん。
 まずはお袋に連絡して今日も泊まりになることを伝えねばならんな。始めの一歩が肝心だっていうし。
 スープを飲み干しご馳走様と告げても古泉は硬直したまま黙り込んでいる。頭の中身だけは回転してるっぽいが、さて何を考えていることやら。
「ああ、忘れてた」
 わざとらしいまでにすっ呆けた声をあげ、立ち上がると古泉の方へと近づいていく。途端、古泉は警戒するようにこちらを見上げ、身構える。お前は手負いの猫か。
 古泉に反応させる隙を与えないように素早く古泉の顔の自分の顔を近づける。逃げようとしても座ったままじゃどうにもならない。左手で肩を捕まえ、もう片方の手を後頭部にやり頭の位置を固定する。そのまま唇と唇を触れ合わせる。あたたかく、やわらかい。
「おはようのキスがまだだったよな」
 唇を離し、そう言ってやれば古泉の身体が震えた。何かに耐えるようにむっつりと無表情を決め込んでいるがこの至近距離ならちょっとした顔色の変化だって良くわかる。頬がかすかに赤くなっていくのを見て悪くないなと思う。
 その悪くない、を今後に繋げてゆくためなら、この難儀な男に付き合っていくのもやっぱり悪くないなと思うのだった。