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the end of shite

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#4 終わりなきBGM


あの夢から目覚めた後、俺は結局一睡も出来なかった。朝になり、カーテンを開いて朝陽の眩しさに包まれた瞬間に激しい頭痛と吐気に襲われた。結局何も口にすることが出来ず学校を休むことになってしまった。リビングから聞こえてくる、自分が欠席することを学校へ告げるために電話をしている母さんの声を聞いていると、体調の悪さよりも自分のふがいなさが堪えた。しばらくの間ベッドに横たわって目を閉じていると、母さんがフルーツを持ってきてくれた。食べられそうなものを少しだけ摂取し、もう一度目を閉じると今度は穏やかな眠りが訪れた。

次に目を開いた時、すでに日は落ちて部屋は薄暗かった。ベッドサイドの時計に目をやると、もう十七時を過ぎている。夢の一つも見ないままに眠りこけていたらしい。いくら一晩眠らなかったからといって、少々眠りすぎてしまった。睡眠の取りすぎでぼやけた頭を軽く振って、だるい上体を起こした。その時丁度、母さんが部屋へと入ってきた。様子を見に来てくれたらしい。部屋のスタンドライトに灯りを灯しながら、声をかけてきた。

「あら、やっと起きたのね。随分寝たからもう大分良くなったんじゃない?」

笑いながら僕の額に手を当てる。熱が無いことを確認すると、母さんはそうそう・と一つ手を叩いた。

「今ちょうど悟天くんが来てるのよ。学校休んだって言ったらアンタの事心配してたから、顔見せてあげなさい。」

悟天の名を聞いて一瞬動揺したけれど、寝起きで回らない頭で何も言えずにいる間に母さんは悟天を呼びに行ってしまった。あんな夢を見た直後だ。とてもじゃないけれど会い辛いと思った。それでも悟天に非は無いのだから、心配してくれた気持ちを無下にせず普通に接してやらねば悪いだろう。そんなことを悶々と考えているとドアが開いて悟天が入ってきた。

「トランクスくん、大丈夫?まだ具合悪い?」

照明のついていない薄暗い部屋を歩いて悟天は俺の方へと寄ってきた。スタンドライトの灯りだけでは顔がよく見えないけれど、それはある意味好都合だった。一人意識している自分の顔に何らかの表情が出てしまっても、これならばすぐには判らないはずだ。

「もう大分良くなった。でも風邪かもしれないから…お前、今日はもう帰れ。」

いつも通りにしようとすればするほど、自分の態度はどこか可笑しいような気がしてしまう。だが悟天にとっては特に違和感のある言葉ではなかったらしく、それより内容が気にくわなかったのか拗ねたように返事を返してきた。

「今日は僕一人じゃなく、お父さんもお母さんも兄ちゃんもビーデルさんもパンちゃんもみんな来てるんだよ。だから勝手には帰れないの。」

分かった?と言いたげに両腕を腰に当てて眉を顰めて俺を見る。そんな子供っぽい態度に思わず夢のことも忘れてちょっと笑ってしまう。

「はいはい、分かったよ。じゃあ尚更俺のことはいいから、みんなと居ろって。」

先ほどの悟天の態度のおかげで若干の緊張は解けたものの、まだ上手くやり過ごせる自信は無かった。俺には色々なことを考える時間が必要だった。手で追い払うような動作をすると、悟天はむっとした顔を崩さずにあろうことか俺のベッドに入ってきた。

「おい悟天!何やってんだよ。」
「だって、トランクスくんがいないとつまらないよ。トランクスくんが寝るなら僕も寝ちゃうから。」

病人相手にむちゃくちゃな意見で悟天は無理矢理ベッドに入り込んでくる。押しやりながらも、ベッドにいる悟天の姿を見ていると、どうしても昨日の夢を思い出してしまう。風邪ではないものの、これではまた熱が上がってきそうだ。悟天はそんな俺の心情も知らずに、いっそ憎いくらい無邪気な笑みで俺を見ている。夢の中の悟天の顔が蘇る。喘ぎながら絶えず俺の名前を呼ぶ声。火照って赤くなった頬や耳、熱っぽい目に浮かぶ涙。思い出せば出すほど頭が可笑しくなりそうで、俺は悟天を部屋から追い出すために強行を決意した。

「お前がベッドから今すぐ出ていかないなら、風邪をうつしてやる。」

そう告げると、まだ何が起こるか分かっていない悟天の口元へと自分の顔を近づけた。上から伸し掛かるような体制で唇と唇が近づいて、流石の悟天も口元を引き締める。

「さあ、どうする?」

にやりと意地の悪い笑みを浮かべてみせる。勿論熱などないから、これはただのはったりだ。本当はこっちがいっぱいいっぱいだなんて気付かれてたまるもんか。俺はこうすることで悟天が吃驚してすぐに部屋から出て行くと読んでいた。だけど悟天は相変わらずまっすぐに俺を見つめている。そして静かに言葉を紡ぎ始めた。

「トランクスくんは、こうやって女の人と寝たりするの?」

いきなり飛び出た予想外の言葉に、俺は思わず身を引いてしまう。何言ってるんだ、お前、なんて苦笑してやると悟天はゆっくりと体を起こし、表情を変えずに淡々と言葉を述べる。

「僕昨日聞いちゃったんだ。トランクスくんが年上の女の人と付き合っていて、一昨日の夜はその人の家に泊まったって。クラスの男子が話してた。」

悟天の目の色は薄暗い中でも分かるくらい澄んでいて、二つの光にじっと見られているとなんだか怖くなってくる。責めているつもりなんて無いんだろうけれど、まるで尋問されているような気分になって思わずこちらも強気になる。

「だったらなんだって言うんだよ。お前には関係ないだろう。」
「関係ないかもしれないけど…僕は、なんとなく嫌だった。」

わがままかもしれないけど、トランクスくんが他の人とそういうことしてるって考えたらなんとなく、嫌だったよ。そう呟いて悟天は黙った。その表情がなぜか夢の中の悟天と重なる。俺を見る熱っぽい目。不思議な確信を持ちつつ、そっと頬に触れる。予想通り悟天は拒まない。そのまま躊躇いがちに口を近づけるが、キスする前に止める。唐突に俺は今自分が現実を生きているのか、それともまだ夢の中を漂っているのか、分からなくなった。妙な浮遊感に顔を背けてしまう。

「お前が言う意味は、俺がお前を好きだとか抱きたいとか考えていることと同じなのか?」

思わず自分の本音が零れて、はっと悟天を見た。目の前の悟天は、よく分からないと言った。当然の言葉だ。こんな感情を容易く理解してくれる奴がいるものか。「でも。」よく分からないと言って目を伏せていた悟天が、聞き取りにくいような小さな声で付け加えた。

「でも、今トランクスくんが僕にしようとしていることはなんとなく分かる。僕はそれを止めないで欲しいと思っている。それが、僕がトランクスくんと同じことを考えているからだとしたら。」

伏目がちに呟いていた悟天が顔を上げる。再度目と目が合った俺たちの間には、夢の中で体を重ねている時のような何かがあった。
これは夢なのか、それとも現実なのか?誰に問うたらいいかも分からない疑問だけを持て余して、薄暗い部屋の中で俺は何も言えなくなった。
俺が今手を伸ばして悟天を抱きしめたら、きっと全てが狂って、同時に全てが動き出す。その覚悟があるのかどうか、お互いに自問自答をする時間が必要だったはず。だけど、もはやそんなモラトリアムさえも夢に塗れてしまった俺は、その瞬間に迷うことなく腕を伸ばした。

作品名:the end of shite 作家名:サキ