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レイニー

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クラシックなレコード。蛍光色の飴の包み紙。埃を被って変色したシーツの温度。呼吸をするたびに入り込む空気さえ、トランクスはこの空間にある全ての物を嫌悪していた。かつては世界に指折り数えるほどに名高い名声を持っていた高級リゾートホテルの一室も、閉業、そして時の流れと共に廃頽していく。
部屋の中を歩けば足元からは蓄積された埃と塵が舞い上がる。割れた窓ガラスから零れる月光に照らされるそれは、まるで深海の中を漂う気泡のようにも見えた。歩を進めると床板が奇妙な音を発て、もういつこの階が落盤しても可笑しくはないということを告げていた。粉塵と瓦礫と、閉業後に荒らされた証の壁の落書きを一瞥してトランクスは舌打ちする。

「この部屋ももう終わりだ。どうする、悟天?」

独り言のようにささやかな声で呟くと、以前バスルームとして使われていた方面から悟天が顔を出した。壁には風穴が開き、鉄筋が剥き出しになっている。その向こう側から顔を覗かせている様はまるで面会室の向こう側へと隔てられた囚人のように見えて、トランクスは気分を害した。あからさまに苛立ちの意思を露わにしているトランクスに構わず、悟天はその位置からゆっくりと返事を返す。

「またどこかを探さなくちゃね。」

まるでうたた寝をしながらのような柔い口調で悟天が言葉を紡ぐ間にも、ところどころが抜け落ちた天井からは瓦礫の破片が零れ落ちてくる。黒髪に舞い落ちる白濁を払いのけながら、悟天はトランクスの方へ歩いてきた。トランクスは悟天の動作を確認すると、既に部分的にガラスが割れて外へと繋がっている窓を蹴り飛ばした。僅かな振動でも部屋はみしみしと悲鳴を上げる。窓の外を見れば闇夜の向こう、その遥か下には広がる街が見えた。その街にはもう人は住んでいない。五年前、大きな災害に見舞われてゴーストタウンと化したという話だった。古ぼけた色の家々がミニチュアの模型かのように小さかった。悟天とトランクスが居る部屋はホテルの高層階に位置している。悟天がトランクスのすぐ隣に寄り添って、笑いながら眼下を眺める。

「きゃー、トランクスくん。高ぁい、怖ぁい。」

途端に怖がるようなそぶりをしてトランクスの腕に抱きついた。勿論本当に怖がっているわけではなく、芝居にもならないような冗談だとトランクスは解っている。その表情は明らかに全てを楽しんでいた。ビルの崩壊も、そこから見える景色の禍々しさも、今の状況も、ここから飛び降りることも。

「先に行くぜ。」

目の前の相手の腕を掴むと、トランクスはそのまま窓から飛び降りて急降下する。腕にしがみついていた悟天もそのまま共に落下していく。冷えた風が全身を包み、風を切る音が耳に響く。今までミニチュアに見えていた街がどんどんと近くなっていく。
地面のおよそ100m手前のところで二人は宙に浮かんだ。地面には二人の気が巻き上げた土煙が舞い上がり、一時姿が見えなくなる。降り立ったその地には確かに人の気配がしない。悟天は服についた埃を両手で払うと「楽しかった。」と伸びをした。丁度着地地点から目の前に酒場だったような店舗が目についた。二人はその廃墟の前に立つと、鍵が錆付いて開かずの扉となったそれを力まかせに開き、躊躇いなく中へと入っていった。酒場の中は、やはりホテルと同じような状態で酷く荒れ果てていた。いたるところで酒瓶が割れてガラスのかけらが散らばり、椅子やテーブルもほとんどが駄目になっている。中を歩けば鼠が走るような物音が聞こえた。トランクスはカウンターに腰を下ろし、所持品の水を飲んだ。呑み始めるとすぐに、今まで店内をうろついていた悟天が傍に寄ってくる。

「僕にもちょうだい。」
「お前は計画性ってもんがなさ過ぎる。すぐに自分の水飲み干して、…少し我慢してろ。」

トランクスはそう言ったものの、目の前で飲み干されそうな水筒を物欲しそうに見つめる悟天を思わず甘やかしてしまう。やれやれ、と心中で呟くと多めに水を口に含み、指先で悟天を招く。悟天は一度普通に飲みたい、と告げるが、トランクスが水筒を振った音で諦めた。もう水は残っていない。しょうがないなーと今度は悟天が呟いて、背伸びをしてカウンターの上に座るトランクスに口付ける。二人の口元からは水滴が溢れて木製のカウンターへと吸い込まれていった。トランクスはそのまま悟天の口内を味わうように舌を絡めた。苦しそうにしながらも受け入れる悟天の息は次第に上がり、口付けの合間に熱の篭った吐息を溢す。トランクスは背伸びをしたままの悟天をもどかしそうに見ると、体を抱き上げてカウンターの上に乗せた。ごく自然な流れで、悟天の服の下へと手のひらを這わせる。二人にしてみれば、こうなると古びた廃墟がベッドルームのように変わる。場所は関係ない。ただお互いが求め合うままに体を重ねるだけだった。

作品名:レイニー 作家名:サキ