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雪国、林檎、鉄道にて(ヒヤコ

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「え、いや、全然いいけどさ! だよな! 東北寒すぎるよな!!」
「う、うん! 寒いから眠れなくてさぁー」
 あっはっはと互いに上げた馬鹿みたいに大きい笑い声に、何席も離れた所で新聞を読んでいた紳士がびくりと肩を震わせた。それを見て互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
「ほら、おいで。ここ座りなよ」
「わぁい、じゃ、遠慮なく」
 自分の席に芯だけになった林檎の包みを放り、隣に座った従姉妹は、マントの肩先に頬を寄せるようにして頭を乗せ、機嫌良く目を閉じた。
 と思えば、うっすらと目を開け、あの悪戯を思いついた時の顔でこんな事を言う。
「駅に着いたら、いつもみたいにちゃんと、弥子って呼んでよね」
「……ん」
 ぎこちないウインクと共に目を閉じた弥子の肩口にマントの端を引っかけてやって、結局ヒグチは、見るとも無しに弥子に貸した肩と反対の窓の外を見ながら発車までの時間をやりすごす事になった。