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無人島に持っていきたいもの

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クソ剣士の様子がおかしい。
 眉を顰めながらそう漏らしたサンジに、巻いた髪をサイドでゆるく結ったナミがそう? と首を傾げた。
「私には、むしろ二年も経ったんだから少しは変わんなさいよってくらいそのまんまに見えるけど」
「え………そうかな」
「ね、ロビン。全然変わってないわよね、あいつ」
「そうね。特筆するほどには」
 黒くつやつやとした長い髪を可愛らしく二つ結びにしたロビンに、ナミが「ねー」と顔を向ける。
 出航してから毎日のようにヘアスタイルを変えている彼女達の間では、二年の間に随分長くなった互いの髪で遊ぶのが流行っているらしい。昨日は複雑に編み込んだ髪をアップにしていて、一昨日はお揃いのポニーテールにしていた。
 ああ、やっぱ本物のレディはいいなぁ。
 毎日少しずつ違う彼女達の姿を見る度に、サンジは噛み締めるようにそう思った。あの地獄のような島での美に対する追求は見ているだけで魂が削られそうな気がしたけれど、本物の可愛いレディ達がおしゃれに勤しむ姿はこの上ない目の保養だ。見ているだけで、地獄の日々に荒みきった心が洗われていくようだった。
「おかしいって、どんな所がおかしいと思うの?」
 みかんパフェをパクつきながらそう言ったナミは、そう言って子猫を思わせるような大きな目をくるりとサンジに向けた。その目に、うっと言葉を詰まらせる。
 あまり事細かには説明したくなかった。聡い彼女達に悟られたくない事情があるからだ。
 皆と離れている二年間もずっと考え続け、ある程度の結論を弾き出していた一つの秘密が自分達にはあった。それを悟らせないために、なるべくマイルドにマイルドに外殻だけを説明しなくてはならない。
 あの男の姿を思い浮かべ、サンジは眉間に深い皺を刻みながらゆっくりと口を開いた。
「えーと…………なんていうか、笑いに来るんだよね」
「は…? 笑い……?」
「そう。別に用も無さそうなのにキッチンに来て、人の顔見て笑うんだ。そんで、帰ってく」
 その時の姿を思い出し、胃の辺りがむかっとした。
 別に何を言うでもなく、ゾロはふらりとキッチンにやって来てはサンジの顔を見て笑う。そして満足すると来た時と同じくらいの唐突さで出て行くのだ。
「……えーと、なにそれ」
「や、それがわかんねェからウゼェんだよナミさん。何だよって聞いても何も言いやがらねェし、人の顔見て笑ってるだけなんだよね」
 苛立ちにスパスパと煙草をふかすサンジを見つめ、ロビンがうふふとおかしそうに笑った。
「構って欲しいんじゃないの?」
 滑らかな声に、どきりと心臓が跳ね上がる。
 柔らかい笑顔を浮かべたロビンの表情には、何らかの含みがあるようには見えなかった。内心の僅かな動揺に気付かれないよう気を付けながら、サンジは訝るように顔を顰めた。
「構って欲しいってそんな、飼ってる犬か猫でもあるまいし」
「だって、あなた達のコミュニケーションってそうだったじゃない。私達にとってのごく普通のコミュニケーションが、あなた達にとっては喧嘩だったように見えたわ。少なくとも私にはね」
「あーなるほどね。そういえば、戻って来てからあんたたちの喧嘩まだ見てなかったわね」
 長いソーダスプーンを振りながら、ナミは納得したようにうんうんと頷いた。
 確かにそれは事実だった。シャボンディ諸島から出航して数日が経つが、自分達はまだ一度も揉め事を起こしていない。何かと忙しかったのが大半の理由であるけれど、サンジがそういった接触を故意に避けているのも理由の一つではあった。
「え、なに、そんじゃあいつ、おれの事怒らそうとしてるって事?」
「さあ。それは本人と話し合ってみればわかる事なんじゃないかしら。あなた達の事はあなた達自身が一番良くわかってるんじゃない?」
 そう言って再び微笑んだロビンの目には、今度はほんの少しだけ含むものがあったようにも見えた。
 だが、あえてそれには気付かないふりをした。苦笑を浮かべながら首を振る。
「や、いいよ、めんどくせぇし。聞いて『そうだ』とか言われたら、付き合わなきゃなんねェだろ?」
「あら、クール。二年前なんか、私が何度やめなさいって言っても寄ると触ると喧嘩ばっかしてたのにねー」
「色々あって精神的にも鍛えられたからね、この二年間。忍耐って言葉の意味を骨の髄まで叩き込まれたよ」
「え、誰に?」
「それは思い出したくもねェんで秘密」
「えー、ケチ。サンジくんってこの二年間どうしてたのかほんっとに言いたがらないわよねー」
 ぶーぶーと可愛らしく口を尖らせるナミにも、サンジはごめんねと謝りながら口を閉ざした。
 悪夢のようだった日々を思い出しながら語る事も勿論苦痛ではあるのだけれど、あんな島に二年もいたという事実自体仲間達には知られたくなかった。出来れば一生墓まで抱えて行きたい秘密である。
 あの島に住み着く化け物じみた連中には散々世話になったし、女王(という呼び名自体に疑問はあるのだが)であるイワにも多大なる恩義を感じている。
 だが、それはあくまでも結果だけを捉えればの話だ。
 サンジにとっては本当に地獄のような日々で、仲間達の存在がなければきっと一日だって正気を保てなかったに違いない。実際、気が付けばおぞましい化粧をさせられ、ふりふりのドレスを身に纏っていた事が一度だけあった。あまりの恐怖に、一瞬自我が崩壊してしまったがゆえの悲劇だった。我に返った時、サンジはあまりの情けなさに声を上げて号泣した。
 こんな島に少しでも馴染んでたまるか。
 その一件から、それだけを固く心に誓って二年を過ごしてきた。男らしさを前面に出し、隙あらば島の色に染めようと攻撃を仕掛けてくるオカマ共に対し、全面対決の姿勢を貫き続けたのだ。それだけが自分の心身を守るたった一つの手段だと信じて。
 そんな地獄からの生還を果たしたサンジには、一つ心に決めている事があった。
 あの島で受けた屈辱が、サンジにそれを決心させた。夢に見る程恐ろしかった、島に飛ばされたばかりの頃の記憶。悪夢を具現化させたような姿をしたオカマ達が、サンジを追いかけながら口々に言っていたその台詞が耳にこびり付いて離れていかない。

 『あなたもそう?』
 『そうなんでしょ?』

 『そう』とはなんだ、ふざけるな。
 オカマ達にそう怒鳴りつけながら、だが言葉の切っ先が微妙に鈍いのを自分自身でも感じていた。
 後ろめたい事があるからだ。
 ゾロと幾度かタチの悪いコミュニケーションを交わしてしまった過去が、サンジの心を不安定に揺るがせていた。自分の素性も知られていない状態でそんな事がバレるはずもないのに、全てを知られてしまっているような錯覚を起こしたのだ。彼らに同類と思われてしまうのは、その過去があるからなのではないかと。
「でもそうねー、サンジくんがクールになっちゃって喧嘩が無くなるのは嬉しい事なんだけど、名物がなくなっちゃう事自体はちょっと寂しいわね」
 ナミの言葉に、サンジはぱちぱちと目をしばたかせた。自分達の喧嘩に、うるさいのよと眉を吊り上げ怒っていた彼女が、そんな事を言い出すなんて。
「名物って、おれ達の喧嘩が?」