「月が綺麗」で三編
1.経逸
――なあ。
――なに。
――月が綺麗ですね、って知ってるか。
――ああ、漱石の。
――うん。
――うん。
――……。
――……。
――…なんだよ。
――…いや、
――なに、なんだよ、
――言うのかと思ったじゃないか。
――おま、言うかよ、そんな、恥ずかしい、
――いや、じゃあ、どうしてそういうこと話題に出すの、
――話題とか、お前、だいたいそんな、言うにしても、そんなネタばらしみたいなこと言わねえよ、馬鹿か、
こいつの話に脈絡とか行き先とかを想定する方があさはかだったのだ。ようやくそう気付き、可笑しくなって笑った。笑いながら大きな腕に頭を抱え込まれ、小突かれた。
余計なことはいいか、と思う。
月がある。
まるい月が遠くにある。お前がこんなに近くにいる。肩が触れる。
ぼくらはとても気持ちよく酔っている。
――なあ。
――なに。
――月が綺麗ですね、って知ってるか。
――ああ、漱石の。
――うん。
――うん。
――……。
――……。
――…なんだよ。
――…いや、
――なに、なんだよ、
――言うのかと思ったじゃないか。
――おま、言うかよ、そんな、恥ずかしい、
――いや、じゃあ、どうしてそういうこと話題に出すの、
――話題とか、お前、だいたいそんな、言うにしても、そんなネタばらしみたいなこと言わねえよ、馬鹿か、
こいつの話に脈絡とか行き先とかを想定する方があさはかだったのだ。ようやくそう気付き、可笑しくなって笑った。笑いながら大きな腕に頭を抱え込まれ、小突かれた。
余計なことはいいか、と思う。
月がある。
まるい月が遠くにある。お前がこんなに近くにいる。肩が触れる。
ぼくらはとても気持ちよく酔っている。