墓参り
それに気付いたリンが驚いたような表情を浮かべ、次いで弾むようなリズムを刻み始めた。響くのは、マスターから初めて貰ったリンの曲。
レンが目蓋を開き、悲しげな表情を浮かべる。次いで、小さく息を吐くと、二人同様、朗々とした歌声を響かせ始めた。空を縫って大気を揺らすのは、レンが初めてマスターから貰った曲。
カイトとメイコが二人同時に肩をすくめて見せる。それからメイコはマスターへと視線を移し、濡れたマスターをそっと撫でると、艶やかな声で言葉を紡ぎ始めた。
何にも揺らぐことの無い旋律。メイコが貰った初めての曲。
カイトはミク同様、周りを見渡す。それから四人を見て苦笑を零すと、次いで温かな色を瞳へとにじませた。
すっと息を吸い、彼は耳に心地よい優しい声で音を言葉に乗せる。
彼だけの、柔和な音と歌詞。カイトが初めて貰った曲だった。
テンポも違えば歌詞も違う、音程も違う。他人から見れば不協和音、という言葉しか浮かんで来ないようなぐちゃぐちゃなメロディ達。けれどそれでも、彼らは彼らの初めての音を唄う。空へと向かって、マスターへと向かって。
心配しないで、大丈夫だよ、悲しくなんてない、平気だよ──そうマスターへと、告げるように。
最初に唄い終わったのはミクだった。彼女は何故か湧き上がってくる悲しみを押しとどめ、満面の笑みを浮かべる。それから、小さく息を吐いて、マスターへ届くように大きく叫ぶように言葉を発した。
「お久しぶりです、マスター!」
マスターへ、──マスターの苗字が刻み込まれた墓石へと向かい、彼女は精一杯の笑みを浮かべた。
(終わり)
「【ニコニコ動画】【初音みくのオリジナル曲】 墓参り」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm3582790)を聞いて感動して書いたお話です。
原曲の作曲者様方に最大の敬意をはらって。
2008/06/15