墓参り
その様子を見て、ミクは小さく息を漏らした。僅かに震えたそれに、苦笑を浮かべてしまう。悲しまないで、切なく思わないで。そう言ったのは自分だというのに。
それから四人の傍へと近寄り、同様に手を合わせた。目蓋をそっと閉じる。黒が視界を包む中、彼女は何故か心の隙間が広がっていくのを感じた。
いつまで経っても消えない穴。それはミクだけでなく、リンやレン、ひいてはカイト、メイコにも巣食っている。穿たれた穴は、治る兆しを見せない。けれどそれで良いと思う。ミクはそっと息を零すと、心の中でマスター、と呟いた。
何年も前。マスターのボーカロイドがミク一人だった時。ミクはマスターにどうして悲しんではいけないのか、とたずねたことがある。日本の価値観。悲しんではいけない。どうして? 心底不思議に思った。そんなミクに、マスターは教え諭すように、優しげな声で言った。
「泣いていると、大切な人が中々空に行けないんだよ。ああまだ泣いている、泣かないで、心配しないで、わたしは元気だよ、大丈夫だよ──、そう思って、ずっとその場に留まってしまうらしいから」
泣かないで。悲しまないで。そう思わなければならないこと。悲しみの感情をひた隠さなければならないこと。それはどれほどに辛いことなのだろう、ミクはその時呆然とその言葉を受け止めたものの、今となってはそれが身を裂く程に酷いことなのだと、彼女は感じていた。
マスターへすがりつきたい。泣きつきたい。戻ってきてと、お願いだから戻ってきて、そう言いたい。けれどそれを言ったらマスターが困る。マスターが心配する。マスターが、──空へと、行けなくなる。
それだけは、どうしても阻止したいことだった。
だから、笑う。大丈夫、辛くないよ、マスターこそ寂しくない? なんて問い掛けることができそうな、そんな笑みを浮かべる。
寂しくないよ。──嘘だよ、寂しい。
悲しくないよ。──嘘、ずっと悲しい。
マスターこそ、寂しくない? ──早く、戻ってきてよ、マスター。
言葉と裏腹の気持ちを抱きながら、笑う。
色々といいたいことこそは有るものの、彼女は何も口にせず、目蓋を開けた。それから、周りを確認してから、小さな音を言葉に乗せ始める。
それはマスターから初めて貰ったミクの曲。