MM・プレビュー
ひそめたような声が、静かに少年の名前を呼ぶ。ぴくり、とエドワードの肩が跳ねる。ロイはゆっくりとエドワードに近づいて、そうっと肩を抱き寄せた。
「今までより辛いこともあるだろう。手を離すのが一番いいと、私だってそう思わなかったわけじゃない。…でもな、出来なかった。許して欲しい。傍にいさせてほしいんだ」
「………」
抱きしめられるに任せていた体が少し動いて、その腕が躊躇いがちにロイの腕に添えられる。
「…あんた、ずるい」
「ずるいか」
ほんのわずか笑みを含んだ問いかけに、エドワードはこくりと頷く。
「あんたばっかりオレのこと好きみたいな。あんたばっかり我慢して、悪者になってるみたいな言い方する。それってずるい」
「…じゃあ?」
「オレだって思う。…大佐は…、オレに、い…色々、教えてくれたっていう…そう思って、こういうのって、…す、好きとか、そういうのはこういう風なんだっていっこずつ教えてもらったんだって。そういう風に思わないとだめなんだなって、何となくそう思わないとだめかなって、考えてたんだ」
しどろもどろな言い方は彼らしくはない。けれどそれだけ悩んでくれていたのだということはよくわかった。
「でも何が一番いいとか、あってるとかまちがってるとか…そういうの全然わかんないし、他にもいろいろ考えなきゃいけないことあって、…本当は考えて、答えとか、出すのいやだった。何にも決めないままでいて、…それだったら、離れちゃっても…段々平気になるのかなって思ってた」
「離れて平気になると思っていた…?」
「…よくわかんねえ。結局離れるってほど離れたことじゃないじゃん。だから…平気にならないとだめだって思ってた、って感じかな」
肩を竦めるようにして息を吐く。少しの戸惑いの後、エドワードはロイの腕を両手で抱くようにして体重をかける。力を抜いた体に、腕の持ち主はただ目を細めた。
「あんた、オレがどんだけわがままで独占欲強いか知らないんだ」
意外なことを言われた気がして、ロイは目を瞠る。いや、わがままというのは何となくわかるのだが。
「母さんもアルもみんな、オレは自分の傍になくちゃ嫌で、…今にして思えばあんなに親父がむかついたのだって、母さんのこともあるけど…オレのことほっぽり出していったみたいで、だからあんない腹たったのかもしれないって。…ガキだろ?」
「……」
「だから。…オレは皆が…なんていうか、皆が普通にするみたいな…そういう距離とか、うまく取れる気が全然しない。それでもいいの。あんた、オレのことまだあんまりわかってないかもしれないんだぜ」
ロイは小さく笑って、抱きしめた小柄、その耳元に唇を寄せた。
「――それは脅しか?」
「…フェアじゃないだろ。オレの取扱説明、しとかないと」
「安心してくれ。わがままさなら私も負けない」
エドワードはほんの少し首を捻って、あきれた顔で答える。
「そういうのって、安心って言うのか?」
「同じなら気に病まないんじゃないかと思って」
「…あんたには負ける」
苦笑はとても美しいものだった。様々な葛藤を受け入れたことが見えるからだっただろう。