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星を奪う男

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 釘を刺すような発言に、は、とマスタングは頭を下げた。内心の冷や汗は、感じさせてはいけないものだった。

 まあ、折角来てくれたんだしゆっくりしていったら、とやはり砕けた口調で国王はマスタングに勧めてきた。社交辞令だが、その社交もまた重要なものだった。
「…すごいな、」
 こちらでおくつろぎを、と通された部屋からは、よく手入れされた庭が見えた。クセルクセスは砂漠に位置する国で、当然緑を育てるのは根気がいる。しかし、よく育っているところを見ると、水が湧いているか熱や乾燥に強い植物で構成されているのだろう。
 ひとりになって落ち着いていたマスタングだったが、その緑を見ていたら段々気になってきて、ついつい手すりに手をかけた。高さを見れば、これくらいなら軽く飛び降りられるな、と思う。
 砂漠の真珠、優れた技術と高度な研究を擁する都市国家、クセルクセス。なかでも「錬金術」と呼ばれる門外不出の学問の生活への貢献は目を瞠るものがあり、クセルクセスの民は最も過酷な環境にありながら最も豊かな生活をしている、とよく話題になる。食料の生産性も工業機械の発達も目覚しく、医療も他周辺国を一歩どころか二歩三歩の先を行く。誰もが喉から手が出るほど欲しがる技術だ。しかし、のらりくらりとそれらの矛先をかわし続ける今上がいる限りは、どこに奪われることもないだろう。そもそも戦って負ける国ではない。
 元首にして将軍でもある、英雄、ロイ・マスタングは、身軽に飛び降りた庭で背の高い木を見上げ、再び感嘆の溜息を漏らす。
「これが、クセルクセスの…」
 気候的にアメストリスの方が温帯になるので、植物の成長はそう困ることではない。しかし東端、南端は砂漠が近くなるため、砂漠にあるこの国でこうやって植物が育ち、繁っているのを見ると、なんとかして自国でも再現できないだろうか、と思ってしまう。それはもはや為政者の視点だった。
 しかし、彼は為政者としての目だけでこの庭園に見とれていたわけではなかった。彼は彼個人として、この国にずっと来てみたかったのだ。まさかそれがこんな形で叶うとは思ってもみなかったが…。
「…ん?」
 部屋から離れすぎないように庭園を歩いていて、ふと、館とは少し離れた場所に立つ塔に気づいた。白い優美な印象の塔は高く、なぜかひどく目立った。おや、と思ったのは、塔の先端、つまり最上部だが、そこがまるで部屋のように窓を備え、少し横に広がっていたからだ。部屋だとして、あんな高い場所にいるのは何者なのだろうか。特殊な背景があることは予想できるが、クセルクセスの国内も、さきほど謁見かなった国王も、たとえば人を監禁しておくような、そういう陰鬱さとは無縁なように思えた。確かにどんなに無害に見えてもそれが当てはまらない場合があることはわかるが、それにしても、だ。
 何となく立ち止まって見上げていたら、窓の向うに誰かが映った気がした。そのまま立ち去れずに見ていたら、なんと驚いたことに、窓が落ちた。
「…?」
 なんだろうか、とつい見守ってしまったら。やがて窓枠なども完全に下に落とされて、さすがに異常事態だろうと目を見開いている中、人が一人下に落ちてきた。息を飲んで駆け寄ったのはもう無意識だ。とにかく助けなければと思った。間に合わなかったとしても。そこに、恩を売ろうとか、そういう意識はなかった。彼は少し、人がよすぎるところがある。
「大丈夫かっ…、…?」
 がさがさと木をかきわけて近寄って、そこでロイは呆然と立ち尽くす。そこには誰も倒れてはいなかった。何事もなかったかのような顔で真っ直ぐに立つ、小柄な人がいただけで。小さいので子供かと思ったが、よくよく見れば少年か少女のようだった。ようだ、というのは、振り返った小さな顔がどちらとも判別のつかないものだったせい。いや、媚と無縁な、けれど硬質というのとも違う雰囲気のせいか。
「…今、…高いところから、落ちて…」
 ロイは呆然と目を見開いて尋ねる。
 ロイの肩までか、それより低い場所に頭のあるその、クセルクセスの古い民族衣装である白い長衣を纏った随分若い人物は、いやそうに顔をしかめた。眩いほどの金色の髪と瞳は先ほど謁見の機会を得た国王を連想させるが、それと比べてさらに純度の高い色合いだった。
 クセルクセスの民には金髪、あるいは白髪が多い。陽射しに灼かれるせいだろうと考えられているが、古来より「黄金の民」と周辺からは称せられ、敬われている。砂漠の都市、街道筋の拠点ということから混血や移民もそれなりに多く、近年では往時程に誰もが金髪ということはないようだが、王族は純血を未だに保っていると聞く。金茶や赤茶の瞳が多い中、黄金、しかもまじりけのない金色の瞳となれば、いずれ王族に連なる人物なのは間違いないように思われた。第一、こうやって王宮の敷地内にいるのだからそれは確実だろう。
「…誰だ」
 幼さの残る顔立ちだったが、低く誰何する声は威厳と、そして侵しがたい尊厳に満ちていた。昂然と胸をそらし尋ねる態度は堂に入っており、普段からそうした態度をとりつけているのだろうことを暗示している。
 ロイは丁寧に膝を折り、一礼して名を告げた。
「これは失礼。私はロイ・マスタング。アメストリスより参りました」
作品名:星を奪う男 作家名:スサ