Prayer*
『…ル、ハル?』
意識の向こう側で、俺の名前を繰り返す、聴き慣れた声。
その声を遠く聴きながら、ひんやりと冷え切った空気がすぐ傍で動くのを感じて、中途半端に羽織っていた毛布に深く潜り込んだ。
『…ハルってば!なんでこんなところで寝てるの!?そんなんじゃどんだけ寝たって疲れなんか取れないよ?!』
突然耳元に飛び込んできたまるで遠慮のない騒音に、殺意が沸いたのは、言うまでもない。
「──俺が疲れてるのはわかってるみたいだな…」
嫌味と溜め息を含ませた一言を、力なくその声の主へと向ける。
『昨日遅くまで何度も家電も携帯も鳴らしてるのに出なかったから…長引いてるのはわかってた!だから留守電入れといたのに!何時になってもいいから終わったら電話くれ、って!』
興奮して半泣き状態になって、畳み込むように叫ぶカイ。
なんで朝からこんなに生命力に満ち溢れてるんだ、こいつは…。
「留守電なんか聴く暇あったら1秒でも早く寝たかったんだよ俺は…疲れを取らせる気があるなら、その無駄に高いテンションで貴重な眠りを妨げるのはやめろ…」
『…ハル、昨日の約束、覚えてないでしょ…』
身に覚えのない約束を不機嫌に口にされるが、まだ眠ったままの脳が、カイの言葉に追いつかない。
ふと、まだ重たい瞼を薄っすらと持ち上げて壁掛けの時計に目をやると、まだ朝の6時を過ぎたばかり。
──とりあえず。
もう諦めて目を覚まそう…。
こいつがここに居るのが夢じゃなければ、どうせ俺が起きるまで耳元で喚き散らされ続けるのが目に見えてる。
黒く硬いレザーのソファに浅く身体を沈ませたまま、サイドテーブルのタバコに手を伸ばす。
瞼を閉じたまま、タバコを1本口に咥えて、手探りでライターを探すけれど、見当たらない。
いつもならタバコと一緒の場所に置いておくのに…
「……ライター…」
小さく零した俺の声が届いたのか、ソファーの背もたれに無造作に放り投げられたジャケットのポケットからライターを見つけ出して、カイが俺の目の前に歩み寄る。
それを受け取ろうと、カイに向かって黙って手を伸ばすが、いつまでたってもそれは手渡される様子はない。
「おい…よこせ」
『寝タバコは危ないからダメって何度も言ってるじゃん』
ふくれっつらでそう呟いたカイが、ソファから俺を引き剥がそうとする。
意識の向こう側で、俺の名前を繰り返す、聴き慣れた声。
その声を遠く聴きながら、ひんやりと冷え切った空気がすぐ傍で動くのを感じて、中途半端に羽織っていた毛布に深く潜り込んだ。
『…ハルってば!なんでこんなところで寝てるの!?そんなんじゃどんだけ寝たって疲れなんか取れないよ?!』
突然耳元に飛び込んできたまるで遠慮のない騒音に、殺意が沸いたのは、言うまでもない。
「──俺が疲れてるのはわかってるみたいだな…」
嫌味と溜め息を含ませた一言を、力なくその声の主へと向ける。
『昨日遅くまで何度も家電も携帯も鳴らしてるのに出なかったから…長引いてるのはわかってた!だから留守電入れといたのに!何時になってもいいから終わったら電話くれ、って!』
興奮して半泣き状態になって、畳み込むように叫ぶカイ。
なんで朝からこんなに生命力に満ち溢れてるんだ、こいつは…。
「留守電なんか聴く暇あったら1秒でも早く寝たかったんだよ俺は…疲れを取らせる気があるなら、その無駄に高いテンションで貴重な眠りを妨げるのはやめろ…」
『…ハル、昨日の約束、覚えてないでしょ…』
身に覚えのない約束を不機嫌に口にされるが、まだ眠ったままの脳が、カイの言葉に追いつかない。
ふと、まだ重たい瞼を薄っすらと持ち上げて壁掛けの時計に目をやると、まだ朝の6時を過ぎたばかり。
──とりあえず。
もう諦めて目を覚まそう…。
こいつがここに居るのが夢じゃなければ、どうせ俺が起きるまで耳元で喚き散らされ続けるのが目に見えてる。
黒く硬いレザーのソファに浅く身体を沈ませたまま、サイドテーブルのタバコに手を伸ばす。
瞼を閉じたまま、タバコを1本口に咥えて、手探りでライターを探すけれど、見当たらない。
いつもならタバコと一緒の場所に置いておくのに…
「……ライター…」
小さく零した俺の声が届いたのか、ソファーの背もたれに無造作に放り投げられたジャケットのポケットからライターを見つけ出して、カイが俺の目の前に歩み寄る。
それを受け取ろうと、カイに向かって黙って手を伸ばすが、いつまでたってもそれは手渡される様子はない。
「おい…よこせ」
『寝タバコは危ないからダメって何度も言ってるじゃん』
ふくれっつらでそう呟いたカイが、ソファから俺を引き剥がそうとする。