Prayer*
柔らかいスプリングに身を委ねても、さっきまで硬いソファで眠ってしまっていたせいで、背中がまだガチガチのままだ。身体を捻らせて、痛む背中を庇うように、横向きになる。
目の前にふと飛び込んできたカイの横顔が、思ったより近かった。
瞬間、カイの唇が、微かに動いて、音を発する。
『…ハル……』
名前だけ呼んで、その声はすぐに、か細く消えていった。
「…なんだよ」
届くことはないとわかっているけれど、静かに、その声に答える。
カーテンの僅かな隙間から、時間が経つにつれて光の強さを増して浸入してくる朝日の帯が、カイの黒いしなやかな糸に降り注いで、艶を作る。
少しだけ手を伸ばして、その髪に触れて、指を滑らせた。
さらさらと、シーツに落ちていく音を、目を閉じて聞きながら、もう片方の手で、カイの指先を絡めとって、祈るようにその手を口元に引き寄せ、カイの指に、ハルの唇が微かに触れる。
すぐ間近から心地よいテンポで聞こえてくる寝息に、少しずつ自分の呼吸をシンクロさせて、
囁いた。
「──役立たず」
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(Happy BirthDay、ハル)