ハロー、スイート。
本気でそう思えるくらい、この人の側は落ち着かなくて困る。
だというのに、なぜだか無性に、近くに寄りたくてたまらないので余計に困る。
「いただきます!ほら、平・・・じゃない、静雄君もたべなよ!」
「は、はあ」
帝人がパンプキンパイにフォークを入れ、大きめの一口をあんぐりと開けて、心底幸せそうにそれを頬張る様子といったら。ハムスターかリスがこんな感じだろうか、頬いっぱいにモノを詰め込んでニコニコしながらそれを咀嚼している。あまりに美味しそうに食べるので静雄もつられるようにパンプキンパイに手を伸ばした。帝人が飲み込んだよりも大きい一口を豪快に詰め込めば、今まで食べただどんなパンプキンパイよりもおいしいような気がして、驚く。
今日は驚いてばかりだ。
「おいしいね、静雄君」
また来ようね、と言われた言葉はどうしてだかひどく甘い。
静雄は胸焼けしそうな気持ちを抱えて、それでも必死になって、首を縦に振った。
何度でも言おう。
平和島静雄は、甘いものが大好きだ。
そんなの似合わなくても、どれだけ意外でも、好きったら好きだ。
1日に二桁のケーキを頬張ったところで平気な静雄にとって、パンプキンパイの一つや二つ軽く消費してしまえる。ところがどうだ、
今現在この底知れぬ甘さに胸が一杯なのは、決して気のせいではない。もうこれ以上は一口だって無理かもしれないとすら思う。原因はこの、目の前の先輩が醸しだす磁場。
だったらこの人に食らいついたら、それはもう甘いのだろうなと静雄はそんなことを考える。今現在ギブアップしてしまいそうなパンプキンパイなどよりも、そちらの方がよほど美味そうに思えて、知れず喉を鳴らした。この人ならば、欠片も残さず飲み込んでしまえるだろう、それについては根拠のない自信がある。
ああそうだ、こういう感情をなんというのか、ようやく思い当たった。
そうか、これは、恋か。
どうりで、胸焼けがするほど甘ったるい。