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ボーイズトーク

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「ひとめぼれって、信じる?」

新羅はうっかりくわえていたストローに自分の息を吹き込んでしまった。紙パックの中でコーヒー牛乳が泡立つ音がする。ごぽっ。
この台詞を、たとえば彼の愛しの彼女がPDAに打ち込んで自身に告げたとしたなら新羅は、ラブムード大歓迎とばかりに彼女の手をとって口説きにかかるだろう。あるいは昼休みの喧騒の中、ガールズトークに花を咲かせている女生徒の台詞なら、彼はコーヒー牛乳をごぽっとさせることはなかっただろう。だがこんな乙女じみた台詞を口にしたのが、生理学上男に分類される人間であり、増してや色恋という刹那的なものを上から小馬鹿にしてみているような男がいったもんだから、びっくりした。コーヒー牛乳もごぽごぽするわけだ。

「イザヤ・・・頭でも打ったの?検査してあげようか?」

いつも興味本位、好奇心からくるものではなく彼は心から臨也を心配して言った。よくよくみたら臨也の顔が心無しか赤い。目もなんだかとろんとしている。ほうっとつく息もあつい。臨也はひじを机について、ぼうっと外を見ている。
この症状を、新羅は知っていた。なんだか自分にも覚えがあるからだ。だけどその名称はあまりにもこの男に似合わない。新羅はちょっと鳥肌がたつのを覚えた。

「失礼だね、俺は真剣にきいてんのに」
「うん真剣すぎて鳥肌たってるよ、みる?」

新羅は白いシャツをぺろんとめくってみせたけれど、臨也がそれに視線をくれることはなかった。彼は依然として外、土埃があがっているグラウンドを見ていたからだ。新羅もそちらに目を向ける。もくもくとあがる土煙、時々なにか人のようなものが宙をまっている(間違いなく人だけど)、その中心にいるのは金髪の男、平和島静雄である。
臨也の視線が間違いなくそちらにそそがれていることを確認してから、新羅はあちゃあとおもった。自分が他人の恋心をどうこう言う資格もないし、その相手について言及する資格などもない。彼もまた、常人からはずれたところに恋心をもっているからだ。だけど、これは、これはなあ・・・新羅はあっちゃあと思った。とりあえず先の質問に答えておくことにする。

「・・・ひとめぼれは、まあ信じるかな」
作品名:ボーイズトーク 作家名:萩子