二者択一は趣味じゃないんだ
*
勝利か、敗北か。
成功か、失敗か。
――幸か、不幸か。
どちらがいいか選ばせてやる、なんて二択は問うだけ無意味だ。
自分にとって有益だとわかっているものを敢えて捨てる。人はそれを愚か者と呼ぶ。
もしくは、ただの酔狂か。
「お前のクーヘンが食いたい」
「…だから作れ、と?」
静かに雨の降りしきる、とある休日の午後。
洗濯も出来なければ庭の手入れも出来ないから、掃除を初めとする家事を終えたら特にすることもない。
昼食と片付けを終えてしまえば手持ち無沙汰であり、ならば久しぶりにゆっくり読書でも、と本を手に取ったところだった。
ソファーに身を沈めてだらしなく足を投げ出し、腹の上に新聞を載せたはいいが読む気配のない兄を見やる。
あちこち跳ねた硬質そうな、けれどその実触れると柔らかな銀色の髪が目についた。櫛くらい通せと言ったのにぼさぼさのままじゃないか。
妙なところで生真面目なのは自分と同じはずなのだが…彼は細かいことにはあまり頓着しない傾向にある。
以前そう言ったらお前が気にしすぎなんだ、と笑われたけれど決してそういう問題ではない。と、思う。
「さっすが俺様のヴェスト、わかってるじゃねぇか」
「…どうせ、答えはJaしか認めないんだろう」
軽く溜息付いて立ち上がり、先ほど外したばかりのエプロンに手を掛ける。いつの間にかソファーから身を起こしていた兄は満足げに笑った。
自分は大概、彼には甘い。
勝利か、敗北か。
成功か、失敗か。
――幸か、不幸か。
どちらがいいか選ばせてやる、なんて二択は問うだけ無意味だ。
自分にとって有益だとわかっているものを敢えて捨てる。人はそれを愚か者と呼ぶ。
もしくは、ただの酔狂か。
「お前のクーヘンが食いたい」
「…だから作れ、と?」
静かに雨の降りしきる、とある休日の午後。
洗濯も出来なければ庭の手入れも出来ないから、掃除を初めとする家事を終えたら特にすることもない。
昼食と片付けを終えてしまえば手持ち無沙汰であり、ならば久しぶりにゆっくり読書でも、と本を手に取ったところだった。
ソファーに身を沈めてだらしなく足を投げ出し、腹の上に新聞を載せたはいいが読む気配のない兄を見やる。
あちこち跳ねた硬質そうな、けれどその実触れると柔らかな銀色の髪が目についた。櫛くらい通せと言ったのにぼさぼさのままじゃないか。
妙なところで生真面目なのは自分と同じはずなのだが…彼は細かいことにはあまり頓着しない傾向にある。
以前そう言ったらお前が気にしすぎなんだ、と笑われたけれど決してそういう問題ではない。と、思う。
「さっすが俺様のヴェスト、わかってるじゃねぇか」
「…どうせ、答えはJaしか認めないんだろう」
軽く溜息付いて立ち上がり、先ほど外したばかりのエプロンに手を掛ける。いつの間にかソファーから身を起こしていた兄は満足げに笑った。
自分は大概、彼には甘い。
作品名:二者択一は趣味じゃないんだ 作家名:あさひ