二者択一は趣味じゃないんだ
「……ほら、オーブンに入れるから離れてくれ。兄さん」
「ん?あー、もう出来たの?」
「焼きあがればな」
「作業早いな、お前!」
言葉に従って身を離した兄は、俺が温めておいたオーブンに型を入れてしまうと再び引っ付いてくる。
予想はしていたので抵抗もせず、ただその布越しの温かさを甘んじて受け入れた。
――今以上の幸福を望むことに、何の意味があるというのだろう。
勝利か、敗北か。
成功か、失敗か。
――幸か、不幸か。
どちらがいいかなんてわかりきっている。どちらに転ぶかなんてわからない。
だから勝負を捨てて逃げる。人はそれを臆病者と呼ぶ。
だが勝てない勝負に、何の意味がある?
二者択一は趣味じゃないんだ
(負けるとわかっていながら勝負に出るほど、俺は愚かじゃないんでね)
作品名:二者択一は趣味じゃないんだ 作家名:あさひ