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別れのあと

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二人の間に流れる空気が変わったことに気づかぬほど、ナミは鈍くはなかったし、薄情でもなかった。
不穏というほど薄暗いものではなかったが、それは確かに物悲しさを放っていた。その気配を最初に感じたのは、スリラーバークですべてが終わったと、みなが歓喜していたときだった。
サンジが血まみれのゾロを抱えて戻ってきた、あのときから、ぴりりと肌を刺すようないやな緊張感は続いている。



まだどこか落ち着かぬ広いダイニングで、カウンターの椅子に腰かけて、ナミはキッチンの中のサンジを見ている。おやつの時間も終わり、今は夕食の準備中だ。他の男どもは遊びに新兵器開発に鍛錬に音楽にと忙しい。ロビンはきっと図書室で調べ物をしている。ナミだって、いつもならこの時間、海図を調べたり航海日誌をつけたりと、己の仕事をこなしている頃だった。
サンジはカウンター越し、ナミに向かい合うようにして、野菜の下ごしらえをしている。鼻の下を伸ばしてご機嫌に、今にも踊りだしそうなほどに浮かれて鼻歌なんて歌っている。
「見ててナミさん、今夜は最高に美味しいフルコース作るから!」
ナミに見つめられて、サンジは喜びも最高潮だ。心から嬉しそうに言うのをにこやかな笑顔で聞きながら、ナミはずばりと核心を突いた。
「どうしてゾロと別れたの?」
サンジの動きがぴたりと止まる。手に持っていたトマトをそっと調理台の上に置いて(落とさない辺りはさすがというべきか)、サンジはさびた機械のようなぎこちなさで顔を上げた。
「ごめんね、気づいてたの」
サンジくんとゾロが付き合っていること。いま、この部屋には他に誰もいない、だけどナミは声を潜めた。
「あ、そ……そうなんだ」
てことはロビンちゃんも知ってるんだろうね、そう言って無理やり笑顔を作ろうとする、それがとても痛々しく見えて、ナミは自分までもが傷ついたように顔をしかめた。
「……別れたわけじゃ、ないよ」
ナミにそんな表情をさせてしまったことが情けなく、サンジは笑顔を取り繕うのをやめた。
「ただ、仲間に戻っただけだよ……。それだけだ」
「どうして」
ナミは再びサンジに問うた。だがそこに含まれているのは、『ただ』『それだけ』と言い切ってしまうサンジに対しての苛立ちだった。ナミが見る限り、サンジは―――ゾロも、いまだ相手を想い続けているに違いなかった。
「だって」
トマトを持ち直すサンジは顔を伏せてしまって、表情は見えない。だが声はとても淋しそうだった。少なくともナミにはそう思えた。
「だってあいつは、世界一の大剣豪になる男だから」
おれが色恋沙汰なんて、あいつの中に持ち込ませていいわけがないんだよ。
その言い分は、およそナミを納得させられるようなものではなかった。あのゾロが、その程度のことで揺らぐなどありはしないのに。サンジの言い分に納得がいかずに腹が立つ。けれどこれ以上追求したところで、サンジは本音を言わないだろう。
だからナミは、
「……そう」
と一言だけ口にして、それからゆっくりと席を立った。
作品名:別れのあと 作家名:やまこ