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覚めてから 覚えたのだろうか?

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 その声に、なぜか顔が熱くなったエドは、見えないことはわかっているのに、毛織物を隠すように巻きなおして、つながった男の手をゆっくりと引いた。
 小さなあかりが、二人の足元だけを、どうにか照らす。
 ごつごつとした石が多い場所を、ゆっくりと、男を気遣ってすすむ。
「登れば、着くんだからさ。そ、そんな、あわてなくても」
「これからまだ、気温が下がる」
「あ、あんたは?寒くねえの?」
「鍛え方がちがうのだよ」
「―・・聞くんじゃなかった」
 すっかり、いつもの上司に戻った男と、それでも、手をつないですすんだ。

数時間後。

「で?なんでわたしたちは、下っているのかな?」
「あれえ?おっかしいよなあ・・・。登ってたのに、なんで下りになるんだ?」
「・・・まさかと思うが、逆の方へ寄りすぎてしまったんじゃないのか?」
 だとしたら、山間の下りの部分だと男は黒い先を見つめた。
「う〜ん・・・山って、おそろしいな」
「・・・・・・」

 そこからさらに数時間後が、冒頭の会話となるのだが・・。

「あっちだよ・・」
「・・へ?」
「あちらが、目指す方向だ」
「なんで?あんた、わかって―」
「きみに、ついていってみようと思ったのが失敗だったな」
「そ、そんなの!もっと早く言えよ!」
「だが、―きみに、ついていきたかったのだよ」
「・・・・・な、・・」
「すっかり、甘えっぱなしだったな。さて、日付も変わったところで、そろそろわたしも気を取り直さないと。これ以上きみに甘えていたら、呆れられる以前に、二人揃って体力と気力の限界に襲われそうだ」
 確かに、気温はいちだんと下がっているし、男につられて見上げた空からは、白いものが舞ってきている。
 雪だ、と男は微笑んだ。
 空を見ていたつもりだったが、どうやらその顔を見ていたようで、黒い眼が、こちらを捕らえた。
「ああ、きみは―」くすり、と笑いながら、つながったままだった手を、ふいに引かれた。
「鼻の頭が、赤いよ。ほら、冷たい」
「――――」
 いきなり付けられた相手の鼻が、冷たいかどうかなんてわからなかった。
 黒い髪の間から、同じ色の眼が―。
「―暖かいところへ着いたら、再度挑戦したい、甘え方があるのだがね?」
「な、んだ、よ」
「冷たいな」
「っ、」
 唇を、指でなぜられた。
 にらみあげたら、す、と顔が離され、視界が茶色に。
 柔らかい毛の布越しに、唇へ何かがやさしく押し付けられる。
 
 「―さあ、ゆこう」
 
  男に手を引かれ、真っ赤な顔のエドもゆっくりとすすむ。
  
 「 ―たとえ、灯りがない闇だろうが、この雪がこれから吹雪こうが、わたしには、きみの色をはっきりと見て取れる、自信がついたよ。 ――その色は、いつでもわたしの眼を覚まさせる。   ―― ありがとう。 感謝している   」

   ぎゅ、と。
    固く締まった手のつながりが、
      にぎられたのか、
        にぎったのかは、
             二人にしか、わからない。