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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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斜向かいの背中

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大地を踏み締めて、ひたすら真っ直ぐに前を見て力強く突き進む。
顔を俯かせてくじけそうになった時ですらもその歩みは止めず、一人でも進み続けていたアイツの信じた道は途切れる事なく続く。
どこまでも遠く遥か彼方まで。


オレは、アイツの背中ばかり見てたんだと、夕暮れに伸びる影法師に気づかされた。



繰り出した足を太い木の幹に叩き付ける。
力の限り、何度も何度も繰り返し。
衝撃が足の甲から脛、腿へと伝わり、軽い痺れを感じても、派手な音が立つ割に蹴り付けた木は先端の細い枝先に茂る葉を揺らして下に散らすばかり。

まだだ。まだこんなんじゃダメだ。
持ち上げていた足を地面に降ろし、額から流れ出る汗を拭って息を整える。
やみくもにやったって意味がないのは分かっていたが、練習に参加する度にオレには練習する上での基礎となる筋力や体格がまだ不足している事を思い知らされてしまう。
サッカー部での日々の練習で燻る焦りは抑えられないでいた。

一時期在籍していた陸上部でだって、散々基本のフォームを身体に覚えさせる事が絶対条件だった。
ゴチャゴチャと頭で考えているよりも、身体に叩き込んだ方が確実で手っ取り早いと思えたから、オレは自分から進んで練習に打ち込んでいった。
理論は自分に言い聞かせて納得させる為の知識で、一瞬で終わる勝負に挑んで走り出す為の踏ん切りであれば、それで充分だった。

走って、走って、走って。
トラックを走っている間は雑念も消え失せた。
余計な事など考えずに、ひたすらゴール目指して足を動かしていれば、いつかは辿り着けるのだと。
そう信じて走った。


「風丸ー!」

呼ばれた声にハッと我に返り、思わず慌てて辺りを見渡し声の元を探して振り向くと、呼んだ本人は自分からまっすぐこっちに、オレの方に向かって駆けて来る。
襷掛けした鞄が振動で派手に揺れるのを全然意にも介さずに、大きく手を振って馬鹿みたいに立ちすくんでいたオレの所に。

「何だよ!お前こんな所で練習してたのか?一人で?」
「ああ…」

「水臭いぞ風丸!
それならそうと言ってくれりゃ、オレも付き合ったのに。お前の秘密特訓にさっ!」
「バレたら秘密じゃねぇだろ」
「そっか。それもそうだな」

オレのツッコミにあっけらかんと笑って返した円堂は、鉄塔の敷地の入口からこまで一気に駆けて来たのに、全然息が乱れていなかった。
そこら中が石ころだらけの草っ原を、ほんのわずかたりとも体勢を崩さずに走り抜けてしまった。

スタミナとバランス、それに練習中に垣間見みせるキック力や瞬発力に秀でた身体。
自他共に認めるサッカー馬鹿な円堂の身体は、すっかりサッカーに適した形で成長を重ねつつあるように思えた。
それも、キャプテンとして又は守りの要であるゴールキーパーとして、チームの全員を率いて行くのに相応しい身体になろうと、貪欲にだ。


スピードなら、オレだって負けはしない。
スピードだけは。

でも、それだけじゃダメなんだ。

「円堂、お前破けたグローブの代わりを買いに行くって言ってなかったか?」

練習が終わって校門前での別れ際に、そんな事を話していつもとは逆方向に向かって行った円堂を、オレは見送っている。
商店街のスポーツ店からの帰り道に通るのは、鉄塔は随分と遠回りだ。
だから円堂が今ここに居るのには少し意表を突かれたのだけれど。

「行ったさ、ちゃんと。
で、家に帰る前にジョギングがてらちょっと寄っていくかと思ってここに来たら、特訓してるお前が見えたからさ」

言われて見れば円堂のバッグから、スポーツ店のビニール袋らしき物の取っ手が無造作にはみ出ていた。
…また鞄閉じたままで隙間に無理やり突っ込んだなコイツ。
新品だろうが使い古しだろうが全く意にも介さない、大雑把な扱いの相変わらずさに思わず向けた少し呆れたオレの目にも、円堂は気付きもしないで更に聞いて来る。

「よくここに来てたのか?練習終わった後に?」
「よくというか…まあな」

実はほぼ毎日通っていたけれど、正直にそのまま話すのは何となく気が引けて、オレはただ曖昧に頷いて返しておいた。
そうしたら、オレが返事をぼかして返した途端に、円堂の目がキラキラと輝きを増した。

「スッゲー!風丸、お前頑張ってるんだな!」

興奮気味に、嬉しそうに肩まで踊らせて。
ああ、全く。そんな目で見ないでくれよ
コイツの考えなんてすぐに読めるんだ。
サッカーが好きな奴は皆、自分みたいに純粋にサッカーに夢中になるんだなんて頭っから信じれて、サッカー好きってだけで全面的に信用してしまう単純サッカー馬鹿のお前の考える事なんか簡単に。

「偉いよお前!毎日の練習だってこなしてるのに、その上秘密特訓だもんなっ!
そういうのってアレだ。『すといっく』だなっ!」
「ストイックな…」
「そうそう!」

発音的に英語にはとうてい聞こえなかった単語を鸚鵡返ししたその隙をついて、思わず出てしまいそうになった溜息をこっそりと円堂には分からない様に落としておいた。
果たしてそんな崇高な物なんだろうか。

時々円堂の練習に付き合って相手をしていたと言っても、実際の試合経験なんて皆無に近い素人がこれから始まるサッカーボールフロンティアの地区予選に勝ち進んでいく事が出来る程甘くはないだろう。

『…どうせ部員もたりないんだろ?
そういうことなら、オレ…サッカー部に入ってもいいぜ』

我ながら恩着せがましさを感じさせるような、そんな事を言っておいて。
いざ試合では手も足も出せないような、頭数合わせの役立たずになるのが許せないだけだとしても?
一瞬浮かんだ迷いに口を閉ざしたオレの無言をどう取ったのか、円堂は身を乗り出しだして笑みを浮かべていた口を大きく開いて言った。

「なあ、やっぱオレも特訓に付き合うぜ!」
「何言ってんだよ、いきなり」
「だってさ!オレの時に風丸は付き合ってくれたじゃないか。
陸上部の練習だってあったのに、オレが他に相手が居なくて一人で練習するしかないからって。
だから、今度はオレの番だろ?なっ!」

そう言うなりドンっと力強く、円堂は自分の胸を叩いた。

「ボールがあれば一人でも練習は出来るけど、二人ならもっと色々な事が出来るんだ。
ボールを受け止める事で互いを高めあえる、それがサッカーの奥深い所だって、じいちゃんも言ってた!」

だから頼れと、円堂がオレに向けているその目が、そう言っている気がして。
フッ…とオレの肩からは力が抜けた。

「…分かった。それじゃお願いするぜ。
でも、とりあえずは明日からな。今日はさすがにもう暗いしさ」
「おうっ!任せろ。約束な」

突き出した拳の親指を立てて了解のポーズを示し、円堂はあっさりと承諾した。
そうと決めたら、今日の特訓はこれでおしまいだ。
練習前に放り投げたままだった鞄の埃を掃い、持ち上げた肩紐に首を通す。
反対側の肩にはネットに入れたボールを担いで、それで帰り支度は終了。5分もかからない。

高台にある鉄塔から住宅街の方に続く坂道は、この時間にもなると車通りはあっても通行人はまばらだった。
夕焼けもとうに過ぎて暗くなりだした道を、オレと円堂はどちらともなく並んで歩きだした。
作品名:斜向かいの背中 作家名:いつき りゅう