水に降る雪
「お前もやれよ、面白いぞ」
「俺は童じゃないよ。ほら立って、戻って親友に茶の一つも煎れてくれ」
手を貸して引っ張り起こし、髪や外套に付いた雪を払ってやる。ついでに首に巻いていた布を取って、青白い浮竹の首に巻きつけてやった。
「緋縮緬の襟巻か、贅沢だな……っておまえ、これ腰巻じゃないか!」
と知らぬうちは珍しそうに弄っていた浮竹は、
「艶っぽいだろ」
「あぁ艶っぽいさ!笑うな、恥ずかしい!」
と、襟巻の正体を知って顔を赤くした彼を見てげらげら笑う京楽にそれを突き返し、もさもさと雪を蹴散らして雨乾堂へ向かう。京楽も、笑うのを収めようともせずその後を付いていく。
「あの唄、唄わないのか」
橋を中程まで渡って、京楽が言った。
きれいな唄。でも儚さばかりが匂っていて、京楽はあまり好きではなかった。
あの唄、といわれて浮竹はちょっと考えるふうをして、
「唄わないよ、もう」
また降り始めた雪が吸い込まれていく、水面を見つめて呟いた。
水に降る雪
白うは言わじ
消え消ゆるとも
水に降る雪
水に降る雪
END.