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PROMINENCE

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「すみません、この本、続けて借りたいんですけど」
 三分の一しか読めていないハードカバーをカウンターに出すと、貸出当番の図書委員はその本の貸出カードの日付と予約表を確認して、
「どうぞ」
 と雨竜のカードに日付を書きハンコを押してくれた。
 二回目の延長をした本を片手に、カバンを取りに教室へ向かう。これから部室へ行って、他校の手芸部との合同展示会の準備のための会議をしなければいけなかった。
 宣伝・制作の中心を、部長だからといって一年生の自分がなぜこんなに走り回らなければならないのか、分からない。分からないが、頼られていると知って放り投げることができる性分ではなかった。自分が走り回るなら、その分面倒な役を押し付けてきた先輩たちを存分にこき使ってやろう。
と、借りた本を両手で抱くようにして、フッフッと不気味に笑った時だった。
「面白いことがあったのか」
 目の前がふっと薄暗くなり、視線を上へ向けるとぺしゃんこのリュックを背負った茶度が、一護たちと立っていた。
「歩きながら思い出し笑いなんてぞっとしないぜ?」
「僕がいつ何で笑おうと黒崎には関係ないだろう」
 顔を合わせるたびに余計なことばかり言ってケンカを始めそうな二人の間に入るのは、茶度の役目になっていた。今日もまた二人を止めると、
「井上が探していた」
 と教室を親指で示した。
「部活か?文化部なのに忙しいんだな」
「目立たないだけでいろいろあるんだよ」
「帰り、遅いのか?」
「最近はね。スーパーの値下げ時間にちょうど良いけど」
「そうか…気をつけてな」
 そう言うと、茶度は廊下を先に行った一護たちの後を追っていった。
「あっ石田くん」
 教室に戻ると、開けっ放しのドアから雨竜の姿を見て織姫が走り寄ってきた。話し合いには少し遅れると言ってあるから、先に始めた中で何か問題でも起きたのかと思った。
「今、茶度くんから探してるって聞いたけど」
「先輩たちが、共同制作、どうするのかって」
 さして困ったふうでもなく言うあたり、急いでどうこうするほどの話でもないらしい。
「これから行くよ。ちょっと図書室に行ってた」
 そのくらい前年のを参考にしろよ、と言ってやりたいが先輩相手にそれはまずい。雨竜は眉根を寄せ、本の背で額をとんとんとやった。
「石田くん、これ前も読んでなかったっけ」
「なかなか読めなくて延長したんだ。そんなに難しい本じゃないんだけど」
 教室の後ろの小さなロッカーから部活の道具が入った紙バッグを出し、席へ戻ってノートと教科書の詰まったショルダーバッグを肩にかけると織姫と連れ立って教室を出た。
「テスト、近いから時間取れなくなりそうだね」
「うん。でも向こうの学校も条件は同じだから」
「楽しみにしてる人も多いって聞くし、ちゃんとやらないとね!うわ、たーいへん!」
 織姫はそう言いながら、両手でガッツポーズを取る。こういうことが大変どころか、楽しくて仕方がないようだ。
「来週からはテスト休みだし、今週中にあらかた進めないと…」
 と、何気なく見た窓の外に、一護たちの校門へ向かう姿があった。
「おっ黒崎くんだ!うおーい、くっろさっきくーん!」
 織姫の行動はいつも唐突だ。廊下の窓を開けると、一際目立つオレンジの頭に向かって大きく手を振る。その後ろから、雨竜は茶度を見送った。
『気をつけて、はこっちのセリフだよ』
 バンドの練習の帰り、仲間と遅くまで路上に屯しているのを、知っている。

          ◆

「お前ら、ホントいつの間に仲良くなってんだよぉ」
「仲良いわけじゃねぇよ、同じクラスなんだから話くらいすんだろ」
「だってあの石田だぞ 頭良くて手芸部でメガネなんて、井上さんはともかくお前やチャドと仲良いのはおかしい!絶対おかしい!」
「お前それ失礼じゃね?」
 駅前通りのCDショップで、茶度は三人から少し離れた試聴コーナーで洋楽の新譜が聴けるヘッドホンを片っ端からかけていた。CDを買う予定なのは茶度だけで、他の三人はつきあいだ。店内をうろうろしながら、一護と水色はテンションの高い啓吾の相手を適当にしている。
「井上さんと石田かぁ…あの二人、付き合ってたりして、ね」
 水色のとぼけたように言った言葉に、一護と啓吾と、何故かそこだけ聞こえていたらしい茶度が顔を一瞬強張らせ、一斉に彼を見た。
「え、僕なんか変なこと言った?」
「ガリ勉メガネの石田とマーベラスキュートな井上さんがそんな仲なわけないだろ!」
「だってあの二人、よく一緒にいるし。部活も一緒だし」
「そりゃそうだけど違うと思うぞ、そんな…」
 そこまで言って、一護は「おそろしい」の一言を飲み込んだ。
「美男美女でお似合いだと思うけどなァ」
「ない!絶対ない!」
「ケイゴ、うるせ」
 三人のやり取りを横目に、茶度は洋楽の棚から目当てのCDを取って、レジへ向かった。

『あの二人、付き合ってたりして』

 金を払ってCDの入った包みを受け取り、三人の所へ戻る。
「なぁマック行こう、俺プチパンケーキ食いたい」

『あの二人、付き合ってたりして』

「あれうまいか?食ったことないんだ」

『あの二人、付き合ってたりして』

「先に昨日貸したジュース代!」

 そうだな 別に変なことじゃ ない

 店を出るまでのほんの僅かの間に感じた胸のつかえは、買ったばかりのCDの中身への期待と取って代わっていた。何せ一年半も待たされた。外見はともかく中身はまだ十六歳の少年である彼にとって、それはとても長い時間だ。大人には分からない。
 マクドナルドで一時間ほどしゃべって、駅のバスロータリーの傍で四人は別れた。茶度はバスで家の近くまで、と時刻表を見たがちょうどバスは出たばかりだった。早く帰ってCDを聴きたかったが、これから三十分も待つくらいなら、と歩いて帰ることにして商店街へ足を向けた。
 通りを抜けると、店より住宅の多い地区になる。いつもバンドの練習帰りに寄るコンビニの角を曲がり、古錆びた歩道橋の階段を二段飛ばしで駆け上がると、下を走る通りの先に夕陽が落ちていくのがきれいに見えた。
 一台のバスが、真っ黒な排気ガスを吹き上げながら下を去っていくのに悪態をつきながら、反対側の階段を下り始めた時だった。歩道の少し先にあるバス停から離れていく、雨竜の後姿があった。バスを降りたのかと思ったが、学校からの距離を考えるとそこはあまりに中途半端な位置だった。
 不意に、さっきの水色の言葉が蘇り、また胸がつかえた。

『あの二人、付き合ってたりして』

 バカな。別におかしくない。さぁ帰ってCDを聴こう。
 茶度はちょっと立ち話でもして、じゃあまた明日、それだけを言うつもりだった。しかしちょっと声をかけるには遠い距離で、だからと言って何もせずに背を向けるのは悪いような気がした。
 一歩 踏み出した。

          ◆

 展示会の話し合いと他諸々で、校門を出る頃には街はオレンジ色に染まっていた。駅まで行くという織姫を途中のバス停で見送って、バッグにつけた時計を見ると、一度帰って夕飯の買い物に出る余裕はなさそうだった。冷蔵庫の中身を思い出しながら、スーパーのある道へ足を向ける。
作品名:PROMINENCE 作家名:gen