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PROMINENCE

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 茶度は頭にタオルを巻き、オレンジのTシャツにカーキのツナギという格好だったが、雨竜と同じように全身ずっくりと濡れていた。
「いつからここに?」
「分からない。お前こそ、今まで何をしていた」
 こんなに濡れて、と茶度は手を伸ばして雨竜の前髪をかき上げてやった。
「歩道橋。…君が逃げるから、あそこなら捕まえられると思って、待ってた。…けど…なんで」
 俯いたまま、頭に触れている茶度の手を握った。
「なんでここにいるの」
「俺も待ってた。ちゃんと話そうと思って ―― すまなかった」
「なにが」
「避けたりして、すまなかった…はっきりさせるのが怖かったんだ」
 茶度は一方の手で雨竜の背をかき寄せて、抱き締めた。胸から伝わる体温は熱く、心臓の音が耳に響くようだった。張り付いているTシャツからは、ほんの少し機械油の匂いがした。バイト帰りだったのだろうか。
「はっきりさせるって、なにを」
 胸元で聞くと、答えに詰まったのかまだ迷っているのか、背中に置かれた手がゆっくり上下して、それが何度か往復した後、両手に力がこもった。茶度は、口を開いた。
「好きなんだ…迷惑だろう、ごめんな」
 言ってから、また少し手の力が強くなった。今、顔を見たらきっと真っ赤になっているかもしれない。そう思ったらふとおかしくなって、笑おうと口を歪ませた弾みにくしゃみが出た。
「寒い…よな、悪い。俺、もう帰るから」
 茶度は体を離そうとして、ツナギの腰の辺りを掴まれているのに気付いた。
「上がっていけよ」
 服を掴んだまま、顔を上げずに言ったその声は震えていた。濡れて寒いからだと思い、茶度は雨竜を部屋へ帰そうと肩を押した。しかしそれを拒むように、思いがけない力が服を引っ張り、無理矢理に階段を上がっていこうとするのでおとなしく従った。
「自分だけ言いたいこと言って、僕の話は聞かないつもり?言っただろう、待ってたって。文句を言うだけのために、こんなになるまで僕がそんなことすると思うのか、君は」

 ドアが開き、三和土でぐしょぐしょと音を立てながら湿ってきつくなった靴をやっと脱ぐと、
「そのままでいいから」
 と廊下が濡れるのも構わず雨竜についてバスルームに入った。バスタブにお湯を張る間、雑巾のようになったTシャツやツナギを絞ると驚くほど水が出てきた。狭い場所で、並んだ雨竜も同じようにシャツを絞って感嘆の声を上げる。
「先に入って。あったまらないと風邪をひく」
「お前が先だ、唇の色が変だぞ」
 また言い返そうとするのを有無を言わさず抱え上げ、中ほどまで溜まったお湯の中に雨竜の体を沈めた。
「服のままって!ひどいな」
「どうせ濡れてるんだ、同じだ」
 温まって気分が落ち着いたのか、ほっと息を吐いた。茶度もそのままバスルームの床に座り、バスタブに寄りかかった。
「石田…聞いていいか」
「なに」
「……井上と付き合ってるのか」
 さばっ、とお湯をかいて顔を洗い、長く息を吐いた。
「だから迷惑だろうとか、ごめんだとか言ったんだ」
「テスト前に、階段で話しているのを聞いたんだ… それで」
 あぁ、あの時。そういえばあの日から関係がおかしくなった気がする。
「それは君の勘違いだ。あれは … 僕が最近楽しそうだってことを言ってただけ。大体彼女が好きなのは …一人いるだろ」
 言っても茶度はよく分からないようだった。全て茶度の勘違いから始まって、でもそのおかげで自分の気持ちも分かって、雨竜は少し笑った。
「顔が変わったんだってさ。何でだと思う?」
「……さぁ……」
「鈍いなぁ。僕も人のこと言えないけど」
 さぁ言おう。言ってしまおう。濡れ雑巾になってまで伝えたかったことを。それを聞いたら、茶度はどんな顔をするのだろう。クックッ、と悪戯っぽく笑うと、髪をかき上げて茶度の首を引き寄せた。


2005.8.13
作品名:PROMINENCE 作家名:gen